行き交うもの
「皆さんって、針仕事は得意ですよね?」
開拓村の生活は基本自給自足だ。なので、数少ない女性達は料理や掃除に加えて裁縫も出来るだろうという鈴の判断は当たり。
「まあ、一通りのことは出来るけど」
「でもここだと針や布も良いものがないからね、繕い物も一苦労だよ」
「……だったら少し、お願いしたいことがあるんですが」
グリーンセンターでは、野菜や花卉などの他にちょっとしたハンドメイドの手芸品も置いている。今まで布小物を出品していた人が目が利かなくなって止めてしまったのだが、それなりに人気がある商品だったので他に出来る人がいないかと話が流れてきたのだ。
針や糸等の材料の布は用意できるから、代償に向こうでは入手しにくい砂糖や酒を渡すと言うことで開拓村の女性陣に手仕事を頼みたいと持ちかけてみたら皆乗り気になってくれた。
作ってもらうものはこちらでレシピがある。文字は読めなくても布の切り方縫い方がわかれば良いのだから、絵で十分だ。
「出来上がりはこんな風になるんですけど。見本で一つお渡ししますから、よろしくお願いします」
「……ねえリンちゃん、糸や布の残りはどうしよう?」
余りの材料は村で使ってもらっていい、と告げれば全員がほっとしたようだった。
野山で植物の繊維や動物の素材を集め、糸や更に布に仕立てることは出来るが手間がかかるらしい。鈴が用意した糸は工業製品だから均一な品質の廉価品だ。手作業で天然物から作る物に比べれば品質も下がるかもしれないが、却ってそれくらいの方がいい。
「……鈴、この作り方って……」
リアンナは針仕事はそれ程得意ではない。刺繍なら出来る、と言い張る辺りが如何にもお嬢様だ。
もっとも鈴も裁縫はボタン付けは不自由しないがそれ以上はちょっと、というレベルに過ぎない。おかげでスーの監修で、二人揃って針の稽古になっている。
リアンナの方は正確には鈴の用意した『作り方』の見方を確認したいのだろう。
「えーと、布をこう……この絵みたいに曲げて、こっちで縫い止める」
「ふんふん」
「あんまりきつく留めないでね、後でこんな風に引くから」
「えっ、何それ」
「こういう風に……ほら、これを重ねると花みたいになるから」
「へえぇ~」
出来上がるのは端切れの花だ。ピンを付けてブローチにしたりストラップやその他のちょっとした小物にする。どうこう言っても技術的には大したものではない。ただ微妙な角度や風合いでずいぶん印象が変わるから、その辺はセンスがものを言う。
出来た品物は、くつろぎ庵で出すメニューと交換してもいいとは言ったが、殆ど一家の主婦である女性陣は家族のために砂糖やドライフルーツ等、調味料や日保ちする食材を欲しがった。中でも人気はやはり砂糖だ。
「やっぱり甘いものは別格よ」
リアンナはそこまで手先が器用とは言い難い分、作り方を書き写して他の人間に配っている。ついでに自分用に一枚もらえないか、というのは彼女なりに思うところがあった故らしい。
針や糸、布は質の差があるとは言えこちらでもそれなりにある。だから他所にいる服飾関係者の知人にこの作り方と見本を送りたいというリアンナの頼みを鈴は断らなかった。同じようなものを作ること自体、不可能ではないと判断したのもあるし、他の国でやるならあまり関係がないとも言える。
後で確認してみたリンティスは人の悪い表情で是非やれと宣っていたので、何かしら事情があるのだろう。それも、おそらくはリアンナに協力するとリンティスが喜ぶようなことが。
JAのグリーンセンターに並んだ端切れの花は、爆発的に売れるものではない。だが丁寧な手仕事は常にある程度人気がある。ただし相当な廉価だ。大きさにもよるが三つで百円とかそういうレベル。ピンやストラップを付けて並べて置けばぽつりぽつりと売れるものでしかなく、賑やかし以上の意味はあまりない。
「無きゃ無いでいいかと思ってたんだけど、折角だしねえ」
人気商品だとか言っていた割に、持ち込んだら売り場責任者にそんな風に言われてしまえば些か微妙な気持ちになる。もっともマイナスの印象ばかりではなく協力してくれる人もいる。
「端切れでいいなら幾らでもあるからね」
隣近所のおばちゃん達が持ち寄った布の切れ端はみかん箱一杯になる程だった。一昔前なら、このおばちゃん達も家族の衣類を繕ったり子どもの衣類を手作りしたりしていたのだろう。
今は買った方が遙かに手軽だし高いものでもない。それでも昔の習慣が捨てきれず、ちまちまと切れ端をため込んでいたらしい。
木綿もあるがレーヨンやポリエステルなどの化繊も多い。様々な無地から織り模様のもの、プリント生地など種々雑多だ。多種多様である方が、その方が幅広い色味や風合いもあって材料としては有り難い。




