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くつろぎ庵へようこそ  作者: あきづきみなと


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はじかれるもの2

「ねえちょっと、今日のランチって何?」

にも関わらず当人は馴れ馴れしく声をかけてくる。溜め息を飲み込んで鈴は応じた。

「今日は、ハムカツと卵サラダです」

ランチは日によって変わるものと定番の品の両方がある。日替わりのランチはその時々で適当だ。

「えー、そんなカロリー高そうなもん、誰が食べるのー?」

馬鹿にしたように声をあげるが、食べでのあるメニューもそれなりに喜ぶ客はいる。現に今も。

「日替わりちょーだい、ご飯大盛りで」

「あ、俺もー」

「俺は魚ランチねー」

土木工場に来ているらしい男性客の集団が、声を張り上げる。本当なら彼等、作業服の集団は時間制のくつろぎ庵にはあまり入らない。けれど他にランチをやっている店があまりないので、昼には連れ立ってやって来ることもあるのだ。

「はーい」

彼等は新聞を各種与えて置くと読みふけっていて結構大人しい。スポーツ新聞も仕入れていて良かった、と思う瞬間だ。

「お待たせしましたー」

ハムカツも魚ランチの鯖味噌も、既製品を温める程度だからすぐ出せる。分厚いハムカツや生姜の効いた鯖味噌は、これでなかなか美味しいと思う。

さすがに年配のばあちゃん達は滅多に揚げ物には手を出さないが、鯖味噌は食べる。揚げ物も、たまに二人で一つ頼んで分け合ったりしているようだ。

昼になればそこそこ客も入るから、カウンターでお喋りしたそうに待ち構えている人間に構う暇はない。揚げ物を揚げ、煮物を温め、味噌汁やご飯をよそい、付け合わせを盛り、と色々忙しい。もちろん注文を捌く合間に食べ終わった食器を下げ、洗わないと次の注文に対応できない。昼時は幾らでもやることがある。

一頃は客もなく、日がな一日のんべんだらりとしていたのが嘘のようだ。

「鈴ちゃん、ポットのお湯がないのよ」

「あら、ごめんなさい。今汲みますね」

その間にも座敷席のばあちゃんから声が掛かる。慌ててポットに水を注ぎ、沸くのを待ってもらう。湯沸かし保温ポットは必需品だ。

そうやってくるくる忙しくしているうちに、気がついたらカウンターから問題客の姿が消えていた。

「あれ、帰ったのかな」

「ねえ、あの人お金払っていった?」

昼の繁盛も一区切りついて、ふと気づいた鈴の呟きに母が囁く。

「えっ、知らない。私レジ打った覚えないよ」

母も気がついた時にはいなくなっていたらしい。ばたばたして普段以上に混んでいたのは確かだが、まさか無銭飲食をやられるとは思わなかった。

「カウンターにいたおばさんか?」

こちらはレジで財布をしまいながら、作業服の男性が口を挟む。

「え、ええ……」

「あの何か妙にケバいおばちゃんだろ、人がメシ食ってるとこへ来て栄養が足りないだのバランスが悪いだの言ってたぞ」

「?!そ、それはご迷惑を……」

「いや、あんた等のせいじゃないよ、でも迷惑な客だよな、他人が好きで食ってるメシに文句つけてこられても」

「あと何かベタベタ触ろうとするの気色悪いス」

男性客の中で一番若そうな一人が顔をしかめて訴える。なるほどちょっと整った顔立ちの、イケメンと評することが出来るレベルだ。

「た、大変にご迷惑を」

「いや、店の人も大変だなあ。何かうざそうだし、店のこともうだうだ文句言ってたぞ」

「なら来なきゃいいのにねえ」

一見の客にまでそう言われてしまう辺り、もう駄目だな、と鈴も思う。

「本当にご迷惑をお掛けしてすみませんでした。……あの人、もう来ないようお断りします」

「あー、じゃ私等、明日朝から来ていい?」

のんびりお茶を楽しんでいたお婆ちゃん達が口を挟んでくる。

「あんまりわあわあ言うなら、味方してあげるよ」

「あの人の旦那もねえ、うちのお父さん知ってるって言ってたけど、話してもらう?」

「え、いや、そこまでは……」

「一回言っても聞かないようなら、そうした方がいいかもしれんけどな」


鈴は争い事は苦手だ。自分が我慢して波風を立てずに済むならそうしたい。だけど今回はそうして収める訳にはいかないと思っている。しかし、その日以来、傍迷惑なその客はぱったり来なくなった。

例によって噂に詳しいおばちゃん達によると、夫と夫婦喧嘩になったらしい。それも、あちこちでトラブルを起こしていたことを夫に伝えていなかったらしく、他からその話を聞かされた彼の方がどういうことだ、と激怒しているとか。

元々夫婦はこの辺りの出身ではなく、夫の仕事のために来ている身。夫としてはこの田舎町にいる間、当たり障りなく仕事をこなして次の転勤の際はそれなりの栄転、と見込んでいたらしい。

ところが妻の方はこんな田舎なんて、とばかりにあちこちでトラブルを起こし鼻つまみ者になった。そのトラブルの関係者の誰かがおばちゃんの職場に関わっていて、そちらから苦情が回ったそうだ。

「いやまあ、いつか誰かしら言うとは思ってたけどねえ」

「グリーンセンターでも『何でこんな草っぱに高値がつくんだ』とか騒いでたんだって」

「……こういう言い方はどうかと思いますが、……何ともあの人らしいですね」

鈴が溜め息混じりに言えば客達は苦笑する。

「ああ、ねえ。……あの調子なら、もうここも来ないんじゃないかな」

「何か離婚沙汰になってるらしいよ」

本当に田舎は情報が早いというか、プライバシーも何もあったもんじゃない。その辺りは鈴も同意する。

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