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プチデザートにベリーのソースをかけたムースを出したら、僅かな若い女性客には非常に受けた。
数は少ないが二・三十代の女性客もいる。ホワイトリカーと氷砂糖で漬けた果実酒はまだ未完成だが、ジャムというか粒を残して煮たコンポート的なものをソースに使ったら好評で、実際の作成者である母は上機嫌だった。
「ねえ鈴、これの残りグリーンセンターに出してもいい?」
「え、いいけど……またこの実が入るかはわからないよ?」
「大丈夫大丈夫、あるもの適当に出すだけで同じものが二度とないなんてしょっちゅうなんだから。私らちゃんとした農家さんじゃなくて家庭菜園のお裾分けだから」
確かに田舎の農協が運営するグリーンセンターは、農業で生計をたてている人達だけではなく、母のような半分素人の出品も受け付けている。
もちろんプロが作ったものに比べれば味も見た目も落ちる。だがプロだからこそ手を出さないような、商業ルートには乗りにくい目先の変わったものが出品されることもままあってそれなりに評判は悪くない。
品は概ねフルーツ類か花卉になる。ハーブだの今回のようなベリー類だのは組合に属する農家はまず作らないので、却って物珍しいようだ。競合しないことも大事なのである。
「ま、鈴のところの連中が口にしても大した問題はないな」
「はあ」
リンティスの言葉に頷いてから鈴は首を捻った。
「ん、んん?……『大した問題はない』って、ちょっとした問題ならあるってことですか?」
引っ掛かったところに言及すると、リンティスはぱちぱち瞬いた。すっと目線を逸らしてそのままぼそぼそ応じる。
「いや、その……向こうのものは多かれ少なかれ、魔力を含んでいるから……特に影響はないはずだから」
「えっ、え、えー……あの、魚とかも出しちゃいましたよ!?」
「うん、それで特に何事もなかったから大丈夫。のはず」
「……ちょっとぉ‼そういうことは早く言ってくださいよお!」
思わず悲鳴を上げてしまうのはしょうがないと思う。
厳密な意味では、鈴の世界とリンティスの世界に存在する全ては、名前や見た目が等しくとも同じものではない。リンティスが神の一柱として在る世界は、鈴の世界で殆ど観測されない魔力が満ちている。この世界に属するものは、全て魔力を宿している。飲食物に含まれるのは僅かな量に過ぎないが、全くないものはない。
その魔力が形と意思を持ったのが『神』であり、世界自体を親とする子どものようなもの。その『神』は一柱につき一つの国を有する。だが色々諸事情やら経緯やらあって、現在この世界に神の宿る国は三つしかない。リンティスの宿るこの国はさておき、後はいずれも名の知れた大国だ。
とは言えその国も、今は色々と綻びが見え始めている。
リンティスの世界は、所謂物理法則もあるのだがそれよりも魔法の方が人々の関心を集めている。
その魔法にも種類があり、使い手や対象も分かれる。リアンナや他の冒険者達が使うような魔法が一番一般的なものだろう。素養のある者が努力で身に付けることが可能な、世界に満ちる魔力に指向性を与えて為す、戦力として欠かせぬ技術だ。貴重ではあるが稀少ではない。一部の者しか使えない魔法もある。神官や巫女等、神に仕える者がその崇拝対象の力を借り受け行う業、これは各神殿の秘蹟だ。そして各国の王族に伝わる、その国の守護神の力を現す術がある。
最後が一番使い手を選び、血統が正しくとも神の意に添わない者には扱えないと言われている。実は神々の間でも様々な選定基準があり、おまけにその基準自体が安定しない、言葉を飾らず言えばいい加減な代物だ。
リンティス自身としては、あまり特定個人に入れ込むつもりはない。例外は今のところ鈴だけで、彼が守護する国の王族でも、彼女程の加護を与えた者はない。
一つには鈴が本来この世界に属する存在ではないことがある、加護のない状態では店の外へ出ることさえ難しいだろう。後これは実証済みだが、彼の加護は世界を違えても僅かながら効力を発揮する。一つ一つは小さな、取り立ててどうということもない偶然でも、確かな幸運が鈴には与えられている。
その加護によって、彼女の店を訪れる者にも些細な『幸運』が分け与えられているのだ。
この世界の開拓村は、大した問題がなくとも本当にちょっとしたことで滅ぶことが珍しくない。少し雨が降らなかったり虫が多く沸いたりするだけで畑は枯れ食うに困って離散する羽目になる。ここもそうなってもおかしくなかったのだが、『たまたま』天候に恵まれ、好天故に害獣が増えた時期には、リアンナ達冒険者が村に入ってそれを狩る人手は足りた。一つ一つは単なる巡り合わせに過ぎず、ただ単に運がいいと言われる程度のことかもしれない。だが重なり繰り返せばそれ以上の意味を持つ。
今はまだ、ごくささやかな噂に過ぎないが、この辺境の開拓村は不思議と活気にあふれ、暮らしが向上していると囁かれつつある。




