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くつろぎ庵へようこそ  作者: あきづきみなと


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交換したもの

「はい、今日は鶏唐揚げ定食ですよ」

「おお、ありがとう」

「これ食いつけると美味いよな。腹に溜まるし、悪くない」

新しく開拓村に加わった少年、コウが米飯に拒否感がない、というか好んだので他の村人達も少しずつ米食に慣れてきた(鈴しか知らない彼の出自からは当然だろう)。

特に肉の定食、豚の生姜焼きだの鶏の唐揚げだのは米の飯にとても合うことは彼等も納得してくれたようだ。魚も米と合わせると美味しいんだよ、と主張してまた何かしら取ってきてもらうよう頼み込んだ。一応依頼、と言うことにしている。

よく考えれば鈴がこの世界の金を一方的に受け取ってしまうのは問題かもしれない。鈴自身は殆どこの世界の経済に関わっていない、金を吸い上げるだけになっては回らなくなるかもしれない。

先日の魚介もそうだったが、他にこの辺りで取れるという果実なども買い取らせて欲しいと頼んでいる。

一つの切っ掛けは、カウンターに転がっていたもらい物だった。


「リン、何それ?」

リアンナが不審そうに睨んでいたのは、カウンターの隅に転がっていた楕円形のものだ。短く(こわ)い毛の生えた、彼女の拳より僅かに小さいくらいの代物は見慣れぬだけにちょっと不穏な雰囲気を感じさせる。

「あ、もらい物のキウイです。自宅でなったものだから、ちょっと酸っぱいって言ってたけど美味しいですよ」

「食べるものなの!?」

驚倒する彼女に鈴の方がきょとんとした。

「え、ええ。これ、ちょっと見た目は悪いけど果物なんですよ。食べてみます?」

リアンナはこの生き方を選んでから、極力新しい経験は望んでいる。少なくとも、それまでの経験にこだわって未経験なことを退けることだけはしないようにしようと。だから、今回も思い切って頷いた。

「……お願いできるかしら」

頷いた鈴が切ったそれは、しかしやはりリアンナの予想を超えていた。見栄えは悪いが、切るとその中身は意外なほど綺麗な緑色で、漂ってくる香りも甘酸っぱく食欲をそそる。

「これをね、皮剥いて薄切りにして。はいどうぞ、そのまま召し上がれますよ」

小皿に差し出されたそれを、添えられていた華奢なフォークで刺して口元へ運ぶ。外見を思い出せば躊躇わなかったわけではないが、爽やかな香りが指の動きを後押しした。

「ん、んんっ……お、美味しい……」

確かにちょっと酸味は強い、けれど瑞々しくて甘みも感じられ、そして香りの通り爽やかでなかなか美味しい。果実はリアンナも食べたことがあるが、柑橘や林檎の類以外は珍しいこともあってなかなか新鮮な味わいだ。

「……何かその実、似たようなのが山にあったぞ」

言い出したのはたまたま来ていたカークスだ。顔を見合わせる鈴とリアンナに、彼の妻であるスーが問う。

「山に、ってどこに?」

「いや、東山の谷の方だ。それよりはだいぶ小さかったが、そんな感じの毛むくじゃらがなってたぞ」

「……取ってきてくれたら買い取ります」

素早く鈴が応じる。今度はリアンナとスーが目を丸くした。

「え、山になってるものなの?」

「詳しいことは私も知らないんですけど、原種は山にあっても可笑しくないです。肥料でもやれば、もっと甘くなるかもしれないし……私が買わなくても売り物に出来るかもしれませんよ」

ちなみに、キウイの原種は日本の山中にも見られる「サルナシ」だという説もある。栽培する場合の問題は通常雌雄異株、つまり雄の木と雌の木の両方を植える必要があることくらいか。


後に鈴がリンティスに聞いて確かめたところ、この辺りの植生は日本とかぶるところもないではない、らしい。(詳細はリンティス自身不明のようだが)



柑橘類や林檎、梨の類いならリアンナも知っているし、スーによるとベリー類はこの辺りの森でも良く採れる。種類も豊富だ。

だが鈴の店で出すような甘みの強いものはまずないし、それを加工する技術にしても追い付かない。第一そのために必須の砂糖がない。

鈴は砂糖なら安く入手できるというが、リアンナの故国(少なくともこの大陸では一二を争う大国)でも、砂糖他甘味料は極めて高価な贅沢品だ。それなりの地位にあった彼女にとっても、甘い菓子類は貴重品と言えた。今は故国も甘味の開発に励んでいるというが、そんな余力があるのだろうか、という気もする。

鈴は「ベリー類とお砂糖を交換しましょう」と言い出してスー達を驚かせた。話を聞いた他の女衆が張り切って採取に励んでいる。子どもを亡くしたエレンもだ。集中してやれることがある方がいいらしい。


「鈴ちゃん、これどうしたの?」

「あ、ブルーベリーとかでしょ?」

カウンターに置いた籠には山盛りの色鮮やかな果実。木苺やスグリっぽいものも混じっているが、見慣れないものが圧倒的に多い。

「もらったの。種類はわかんないし結構酸っぱいんだけど香りはすごくいいんだよ」

「あら本当だ、いい匂い。……これ、お酒に漬けたらどう?」

鈴が住むこの辺りでは、所謂ベリーの類いは殆ど見ない。稀に木苺が山野にある他は食用に適さないヘビイチゴとか、昔養蚕が行われていた名残の桑の実(マルベリー)程度。

ただしフルーツと呼ばれる種類はそこそこあった。粒の小さな葡萄や無花果、目先の変わったところでは先日のキウイ、落花生等を栽培する家もある(基本、自家消費用)。

そしてそれらよりずっと多く栽培されて馴染み深いのは、梅だ。近所のおばちゃんが言うような、ホワイトリカーに漬けて作る梅酒は、何処の家でも大概自家製だろう。



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