↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスの人気者女子にクレーンゲームの景品を取ったら、やけに距離が近くなった  作者: 宮野ひの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/44

第5話 友達

「えっと……。浜松さんだよね? おはよう」


 隣にいた石井さんも、気を遣い、挨拶をしてくれた。


「おはよう」


 今度は声が震えることはなかった。


 石井さんは狐につままれたようだった。腕組みをして、私をじっと見つめている。


 当然だ。


 親友が地味なクラスメートに、気さくに声をかけているんだから。


 私は居た堪れなくなって、すぐに自分の席に向かった。

 どすんとカバンを机の上に置いたら、少しだけ気持ちが落ち着いた。


 朝からクラスメートと話すなんて、久しぶりだった。


 一つだけわかっていたのは、谷田貝さんが声をかけたのは、紛れもなく昨日のゲーセンでの出来事が関わっていることだった。


 まばたきをしたら、一つ大きなあくびが出た。


 昨日も夜遅くまで、クレーンゲームの動画を見ていた。

 最近お気に入りなのは、"トレタヨ"さんの動画だ。


 クレーンゲームを撮るカメラが高い位置にあって、景品の取り方にも迷いがなく、勉強になる。


 たとえすぐ取れなくても、ナレーターでツッコミが入って、編集も面白くまとめている。


 お金がない時は、こうやって"座学"で学ぶに限る。バイト代が入るのはもう少し先だった。


 私はカバンを机の横にかけることなく、そのまま枕のように突っ伏した。せめて朝のHRが始まるまで、このままでいよう。


 この時の私は、後ろから谷田貝さんにじっと見られていたことに気づかなかった。



◇



 二限目が終わった後の休み時間。


 私は教室から少し離れた場所にあるトイレの個室にこもっていた。お腹が痛いわけじゃない。


 ただ、一人になりたかっただけだ。


 このトイレは、上級生はもちろん、同級生も使わない。

 一度、用務員さんが使っているのを見たことがあるから、来客向けなのかもしれない。


 教室の喧騒に疲れてしまうと、私はここに来ていた。リフレッシュ目的でもある。


 そろそろ出ようとドアを開けると、トイレの鏡に自分の姿が映っていた。


 おかっぱ頭で、目だけが鋭い。制服もきっちり着こなし、これといった特徴もない。まさにモブの中のモブだ。


 思わず目をつぶり、歯を覗かせるように笑った。

 教室で無表情でいると、たまにこんな羽目を外して、おかしな顔をしたくなる。


「イー」


 ついに声にも出してみた。


 音はトイレ内に反響して、なんだかいつもの自分の声じゃないみたいだ。


 そのままぱちっと目を開けたら——なんと鏡越しの谷田貝さんと目が合った。


 えっ。なんで。ここにいるの——。


「何してるの?」


 ずざざざと退くと、トイレの壁に背中が当たった。痛い。


 顔が赤くなる。目の前の鏡が、今の私をありのままに映していた。


 谷田貝さんはくすくすと、意地悪そうに笑った。


「浜松が教室から出て、どっか行くからさー。追いかけてみたんだけど」

「なんで?」


 乱れた髪を直す。


「うーん。単なる好奇心。でも面白いものが見れたから良かったっ」


 私は見せ物じゃない。


「ねぇ。それ、なんかのおまじない? その歯を剥き出しにするやつ」

「……うん。そう」


 テキトーに流した。

 断じて、幸運をもたらすものではない。


「ふーん? そんなら、あたしもやっておこうかな」


 谷田貝さんは馬鹿正直だった。

 彼女は一歩前に出ると、鏡に向かってイーと歯を剥き出しにして笑った。


 えくぼができた。思わずドキッとする。


 谷田貝さんは、鏡の中の美少女とにらめっこをしていた。

 そのニヒルな笑みは、きっとドMの人からしたら、たまらないだろう。


「……あのさ。谷田貝さんの好きなキャラクターって、とさかちゃんじゃないの?」


 つい疑問に思ったことを口にしてしまっていた。


「ふぇ。んっ?」


 不意をつかれた彼女は、鏡を見るのをやめて、こっちを見た。


「……そうだけど。昨日だって、浜松にぬいぐるみ取ってもらったんじゃんっ!」

「じゃあなんで、石井さんに白猫のピピーナが好きって言ったの?」


 谷田貝さんは首をひねる。


「えー。あー……。もしかしてさっきの八宵との話、聞いてた?」

「耳に入ってきたの」

「ふふっ。どーだか」


 彼女はツインテールをふぁさっと、なびかせた。


「……だってさ、言えるわけないじゃん! あそこは、黒猫のペアのピピーナを言うのが、すじってもんじゃん? 実際、浜松だってそーするでしょ!」

「いや私は、とさかちゃんが好きなら、普通にとさかちゃんが好きって言うけど」

「ええー。マジー!?」


 谷田貝さんは呆れたように、口元を手で覆った。


「……でも、浜松にだったら、素直にとさかちゃんが好きって言えてたかもねー」


 彼女はトイレの個室の扉に、とんと背中をつけた。


「とさかちゃんは万人受けしないからなぁ。昨日のぬいぐるみもさ、妹に見せたら怖いって言われちゃったー。ひひっ」

「妹さんって何歳?」

「6歳」


 それなら怖がるのも無理はない。


 とさかちゃんは目が大きく、無愛想だ。万人受けする可愛さではなく、玄人好みのデザインだ。子どもにはまだ早い。


 谷田貝さんは伸びをする。


「昨日もさー、クラスメートがいなさそうなゲーセンにわざわざ行ったのに、浜松がいたからびっくりしたよー」

「近所なもんで」

「別に言いふらしたりしなさそうだから、全然良かったけどね」

「私に友達がいないから?」

「そうとも言うかな」


 彼女は目を細めて笑った。屈託のない笑顔だったからか、不思議とムカつかなかった。


「でも浜松、今日からは違うねっ」

「何が?」

「あたしが友達になってあげるから!」


 その時、トイレの窓から陽の光が差し込んだ。曇り空の切れ間からこぼれた光が一筋の線となり、谷田貝さんの顔を煌々と照らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。