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クラスの人気者女子にクレーンゲームの景品を取ったら、やけに距離が近くなった  作者: 宮野ひの


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第41話 嫌いになれない

 そこにいたのは、八宵さんだった。


「えっ」


 私は口をぽっかり開ける羽目になってしまった。


「……浜松さん。いつもこんなところにいたんだね」

「……」

「この前の旅行の時はどうも?」

「……」

「最近さー、ひかると一緒にいないよね」

「……」


 声が出なくなる。


 八宵さんは構わずに話を続けた。


「ねっ。知らないままじゃ可哀想だからさ、教えてあげようか」

「何を?」


 直感が囁く。これ以上、聞いてはいけないと。


 わかっているのに、つい続きを促してしまう。


 トイレ特有のじめじめした空気が、今になって重く肌にのしかかった。


「——ひかるがさ。浜松さんのこと嫌いだって」


 時が止まった気がした。


「ほんとほんと! 嘘じゃないよ。だからさー。……お互い、このまま距離置いた方がいいんじゃないかな」

「……」


 ——ブブッ。


 八宵さんのスマホが震える音がした。


「あっ。ひかるからだ! 『どこにいるの?』……だってさ。私のこと好きすぎじゃん! んじゃ。それだけだからっ」


 彼女は不敵に笑うと、急いでトイレから出ていった。


 私はその場に座り込んだ。


「……今、なんて言った?」


 心臓が速い。苦しい。


 八宵さんが言うには、谷田貝さんは私のことが嫌いらしい。


 ……どうして。キスをしたからかな。


 気持ち悪いって、思ったのかな。


 怖かった。突然、自分の存在が穢らわしいものに思えた。


 昨日、開けたピアス穴を触ると、じんわりとした痛みが身体いっぱいに広がった。

 気を紛らわしてくれるには、ちょうど良かった。


 谷田貝さんとの今までの出来事がフラッシュバックする。

 とさかちゃんを取った時の、彼女の笑顔が遠い夏の日の思い出のように、ぼんやりと霞んでいった。


 ……。


 でも、谷田貝さんに直接聞かないとわからない。勘違いっていう線もまだ残されている。


 だけど、一歩が動かなかった。


 私ってこんなに臆病だったっけ。


 谷田貝さんに嫌われたことは、ピアスを開けた時よりも、ずっと痛かった。


 可愛らしい女の子だったら、泣いたりするのかな。酷いと相手に縋ったりするのかな。


 確かなのは、谷田貝さんから嫌われても、やっぱり全然嫌いになれないということだった。


「あはは……」


 笑いだって込み上げてくる。恋とは、一途になってしまった自分と向き合うことでもあるのだろう。


 しばらく床に座り込んで、目を閉じたままでいた。足元から冷える感覚を、ゆっくりと受け止めた。



◇



 それから私は、現実逃避のようにゲーセン通いに勤しんだ。


 何もしてないと、おかしくなりそうだったから。


 まず喫茶店のバイトに行って、それからゲーセンに行く。そんな生活が続いた。

 夜も遅く、21時近くになることがある。


 夕方とは違い、悪そうな人が多くいた。


 最近は、細身のスキニーパンツを履いている男性をよく目にする。複数人で連なって、たまに大きな声を出して笑っている。


 私からしてみれば、非日常だ。不思議なことに彼らを見ると、気持ちが和んだ。


 スキニーパンツの男性は、たまに泣き笑いをしているような表情をすることがあった。勝手だけど、彼も何か悩むことがあるのかなと、傲慢に考えて、自分を慰めることができた。


 喧騒の中にいると、ホッとする。それは初めてのことだった。


 心の真ん中にいるのは谷田貝さん。思い出すのは彼女のことだらけ。


 こんな遅い時間のゲーセンに、谷田貝さんがいることはなかった。


 実はというと放課後に、ここに来るのをやめたのは、彼女と鉢合わないためでもあった。


 だって、どんな顔をして会えばいいかわからないから。


 教室では、谷田貝さんは八宵さんを含めて、誰かしらにいつも囲まれている。

 私から目を合わせない限りは、声をかけられることはなかった。


 ——谷田貝さんと私は住む世界が違うのだ。


 ふらっと店内を見て回った。


「……あっ」


 バッドタイミング。とさかちゃんのぬいぐるみが目に入った。


 しかも布感がツヤツヤしている。前に谷田貝さんに取ったものじゃない。


 ……どうやら新発売されたぬいぐるみらしい。POPにそう書いてある。


 谷田貝さんが言うには、とさかちゃんは"不人気キャラクター"であるはずだった。……次作が出たんだ。


 ごくりと唾を飲む。


 私は財布を取り出した。


 チャリンとコインを入れると『スタート!』と、小気味のいい女の子の声が、私の背中を押してくれた。


 とさかちゃん(新発売)のぬいぐるみを取りたい。そう強く思った。


 アームを動かして、重たい頭に照準を合わせて——。


 ぬいぐるみは軽く持ち上がった。……だけど、取れない。


 大体、新しく出たプライズは、お店側の設定で、やや難しくなっているのが暗黙の了解だ。一発で取れないのも、無理はなかった。


 ……こんなことで、へこたれるものか!


 それから7回はチャレンジした。


 最初の頃よりも、とさかちゃんがゲット口に寄っている。

 よしよし。


「……あっ」


 ——財布の中の小銭が空っぽだった。


 両替に行かないと無い。


 私はその場を離れて、急いで千円札を崩しに行った。


 少しして、とさかちゃんの台に戻ったら——。


「うわ! これもう少しで取れそうじゃね?」

「マジだわー。やってみっかー」

「でも、なんかキモくね? 目ぇ、でかいし」

「まぁ。取れればなんでもいいわ」


 若者もといヤンキー3人組が、とさかちゃんの台でたむろしていた。

 今にも、お金を入れそうだった。待って。


「……あの」


「あっ?」


 予想に反して低い声が返ってきた。驚く。


 金髪の人や、鼻ピアスをつけている人、腕に大きなかさぶたを作っている人、それぞれが私を睨んでいた。


「そ、その台、私が途中までしていたんですが……」


「知らねーよ」

「早い者勝ちじゃね?」

「つか、ますますこのぬいぐるみ取りたくなったわ」

「お前、性格悪いな」

「ゆうやにだけは言われたくないわ」


 身内で勝手に盛り上がっている。


 ……。


 その隙にと、私は両替してきた100円玉をすかさず入れようとした。


「——おい。無視してんじゃねーよ」

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