↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスの人気者女子にクレーンゲームの景品を取ったら、やけに距離が近くなった  作者: 宮野ひの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/46

第38話 2回目

 柔らかい。甘い。


 あれ。私……。


 すぐに取り返しのつかないことをしている感覚に襲われた。

 だけどそれは怖いものではない。底なしの穴に落ちていくような、浮遊感のあるものだった。


 谷田貝さんが、目をぱちくりと開けた。唇は離さない。なぜわかるのかというと、私は一度も目を閉じていないからだ。


 どれくらいそうしていただろう。一秒だった気もするし、十秒以上そうしていたようにも感じる。


 飴の袋が手からこぼれて、床に落ちた。カサっと小さな音が耳に届いた時、谷田貝さんは私から離れた。


「今……」


 谷田貝さんは、唇を手で押さえていた。頬が真っ赤になっている。


「ねぇ、谷田貝さん」

「なに?」

「ごめ……」


 咄嗟に謝りそうになった。友達の境界線を一気に飛び越えてしまったから。

 だけど思いとどまる。私は謝るようなことをしたのだろうか。


「……なんでもない」

「なんなのよ」


 気の利いたことさえ言えなかった。胸に手を当てると、バクバクと心臓が鳴っていた。

 私は思っていたよりもすごく緊張していた。


「……2回目のキス」


 谷田貝さんは、ゆっくりと確かめるように、そう言った。


「……やっぱりバスの中で、私に、その……したの?」

「……うん」


 彼女は逃げも隠れもしなかった。むしろ、腰に手を当ててふんぞり返っていた。


「あのね。浜松の寝顔が可愛いから、ついキスしちゃったの」


 なんて優美な顔。自信満々。

 

 あなたの方が可愛いよ。


「——あなたの方が可愛い」


 あっ。うっかり声に出していた。


「知ってるわよ!!」


 おでこを軽く押されてしまった。


 すとんと壁に背中がつく。


「……寝込みを襲うなんて最低」

「……そっちこそ。飴を言い訳に使ってキスしたじゃん?」


 そんなつもりはなかったのに。


 だけど口の中にはまだ飴が残っている。ラズベリー味が憎い。


「……あのさ、キスしたいです。はいそーです。って私たちの関係で、言えるわけないじゃん」

「……まぁ。そうかもね?」


 納得されてしまった。


 私、今、すごいこと言わなかった?


「——浜松は、言い訳が必要なのね」


 谷田貝さんが私の短い髪に触れた。触り心地がよさそうに、するすると手で弄んでいる。


 いつの間にか、耳が丸出しになっていた。

 彼女は私の髪を収めるべきところに置いた。


「……うん。ねぇ。やっぱりさ、あたしも飴……食べたい」


 なんて切なそうに言うんだろう。


「今、床に落ちたやつ拾うからさ、待って」

「えっ。そんな汚いの嫌よっ!」


 でも、これしかないし。どうしよう。


 顔を挙げると、谷田貝さんと目が合った。


「そこにあるのちょうだい」


 正真正銘、彼女は私の口を指さした。


 はっ?


 ラズベリー味が口いっぱいに広がる。


「やたが……」


 唇を塞がれた。一瞬のことだった。


 顎を持ち上げられて、自然と視線が上を向いた。

 不意を突かれたら、自分のじゃない湿ったものが口に入った。谷田貝さんの舌だった。


 気づいたら、腰に力が入らなくなった。椅子に手をつけて、かろうじて、今の姿勢を保つ。


 何これ何これ何これ。


 頭がついていかない。舌がさらに深く入り込む。


 息継ぎするように口を大きく開けると、谷田貝さんは、さらに私に近づいた。


 あっ。もう。なんか……。やば。


 どろどろに溶かされそう。

 彼女に心の奥まで入り込まれたようだった。足が震える。


「あまーい」


 谷田貝さんは、私から離れると、頬に手を当てて、はしゃいだ。

 カランと歯に飴が当たる音が聞こえた。


 ……。


 奪われてしまった。いろんな意味で。


 私の中は空っぽだった。


 だけど、嫌な気はまったくしない。満たされているからかもしれない。


「えへへ。この飴舐めたら、キスしたくなるのもわかるかもっ」


 谷田貝さんは、両手でそっと私の頬に触れた。まるでクレーンゲームのよう。

 離す気はないらしい。


 唇にキスされる——と思ったら鼻に触れた。塗れた感触から、甘い匂いが伝わってくる。


「はままつー。今めっちゃ面白い顔してるよー」

「誰のせいだと……」

「ふふっ。あたしのせいでしょーね」


 甘い雰囲気にめまいがしそうだった。


 ……もうどうにでもなれ。


 そう覚悟を決めたはずなのに。


 谷田貝さんは、パッと私から手を離すと、そのままゲーセンの奥に向かった。


 えっ。


 目で追うと、スロット台に座っていた。呑気に鼻歌なんかも歌っている。


 はっ?


 ——谷田貝さんの気持ちが読めない。


 ……今からキスする流れだったでしょうが!


 期待を裏切られて、ぽっかり穴が空いたようだった。


 クレーンゲームからチープなBGMが聞こえる。


 ——このまま去ってもいいはずだ。いつもの私だったらそうしている。


 部屋に戻ろうか。外にでも行ってみようか。


 だけど。でも、


 私は自然とスロット台に引き寄せられていた。谷田貝さんの隣は空いている。


 彼女はコインを入れて、遊んでいるような様子はなかった。じっと止まった7のマークを見つめている。


「……隣いい?」


 そう聞くのが礼儀だろう。


 谷田貝さんは、まだ飴を舐めていた。頬が動いているから。


 私の目を穴が開くほど見つめている。


「——やった。浜松、あたしを追いかけて来てくれたね」

「えっ」


 次の瞬間だった。


 谷田貝さんが、背を伸ばして、私の唇に触れた。ふにっと、優しく一つになるように。


 安堵感。私はゆっくりと目を閉じた。


 まだ温泉にすら入っていないのに。すごく安らいでいた。

 どうかこんな時間がずっと続けばいい——。


「ひっ」


 谷田貝さんから、小さな声が漏れた。


 えっ。と思って唇を離すと、なんと後ろにクラスメートの石井さんがいた——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。