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クラスの人気者女子にクレーンゲームの景品を取ったら、やけに距離が近くなった  作者: 宮野ひの


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第36話 キスしたくなる飴



◇



 ベッドに腰掛けると、お尻をすっぽり包んでくれた。家の寝具とはまったく違う。さすがハイクオリティのホテル。


 足を伸ばすと、畳の網目が素足に絡んだ。冷たくて気持ちいい。


 ——斜め向かいには、谷田貝さんがいる。


 白地にハイビスカスが描かれた、鮮やかな浴衣を着ている。頬杖をついて、空(くう)を見ていた。


 すごく似合っていて、綺麗だった。


 私はというと、水色の生地に黄色い花が散りばめられた浴衣を着ている。

 正直、私にはもったいない可愛さだと思った。

 だけど、谷田貝さんが選んでくれた浴衣だったから。

 断る理由もなく、そのまま着てしまっていた。


 制服でもない、私服でもない、浴衣姿の谷田貝さんはまぶしかった。直視できないくらいに。

 それこそ夏祭りに一緒に行ったような気分にもとらわれてしまう。


 だけど、ドキドキなんてしなかった。


 ……緊張はしていたけど、気分が高まるような状況では到底なかった。


「あっ。ラッキー!! お茶菓子がありますよー!! 皆さーん食べましょうよ!!」


 茶色のテーブルの前に座った"松園さん"が手を伸ばした。

 鼻歌なんかも歌ってご機嫌だ。


「……」


 谷田貝さんが、うにゅっとタコのような顔をしていた。


 ——そう。私たちは二人きりではなくて、松園さんも入れた"三人きり"だった。


 ホテルロンリーヌに松園さんがいる意味がわからなかった。


 お菓子をピリピリと開ける音が部屋に響く。


 ——バスを乗り継いでホテルに到着した時、玄関前で松園さんが手を振って待ち構えていた時は、目が飛び出しそうになった。


 なんとも聞いてみれば、未成年の女の子二人をそのまま泊まらせることは難しく、お手伝い権——保護者の松園さんが急遽、駆けつけてくれたらしい。


 確かに考えればすぐわかることだった。だけど、そこまで頭が回らなかったから仕方ない。


 そして結局、3人で泊まることになった。ベッドが2つしかないから、後で中居さんが布団を敷きにくるらしい。


 ホテルに着いたら、谷田貝さんに聞きたいことが山ほどあった。

 バスの中で何をしたの? やっぱりキスだよね? なんで私に? って——。


「うわー。このまんじゅうめちゃくちゃ美味しいー!! 外側がカリカリしていて歯応え最高!!」


 松園さんは自分でお茶を入れて甘味を堪能していた。風情に欠けた。


 これじゃ台無しだ。


「もう……二人きりじゃ……なくなっちゃったじゃない」

「谷田貝さん? 何か言った?」

「……な、なんでもない!」


 谷田貝さんはぷいと私から顔を背けると、勢いよく立ち上がった。

 浴衣の合わせ目が乱れていた。


「もういい! 早速、ゲーセンに行きましょ! こうなれば、はやく何があるか見てみたいわ!」

「ち、ちょっと待ってよ」

「お嬢様!」


 谷田貝さんは一人、部屋から出ていった。ずんずん歩く彼女を、私と松園さんは急いで追いかける羽目になる。


「ちょっと! 松園はついてこないでよ!」

「そうは言っても。心配ですので……」

「もう! 子どもじゃないのに!」


 谷田貝さんの機嫌はすこぶる悪い。ほっぺがいつもより丸かった。


 ゲームセンターは2階にあった。レストランの隣にあったけど、予想に反して、ひっそりとしている。


 私たち以外には誰もお客さんがいない。手前にはクレーンゲーム台が複数あり、奥には太鼓のゲームやスロット台が置いてあった。


「……ふーん。一昔前に流行ったような、ぬいぐるみだらけね」


 谷田貝さんの言う通り、最新のプライズはないようだった。

 もちろん、とさかちゃんもいない。


 だけど風情がある。ある意味、穴場のゲームセンターと言えるだろう。


「あっ! なんですかこれー!」


 松園さんの眼鏡が輝く。奥にある一つのクレーンゲーム台を指差した。


「キスしたくなる飴ですってー! ふふっ。おかしーですね!」


「……」

「……」


 彼女が見つけたのは、ピンクのパッケージに『ラブラブ飴』と書いてある景品だった。


 松園さんがいう通り、"好きな人とキスをしたくなること間違いなし"……と書いてあった。


「あれ? お二人とも、なに固まっているんですかー?」


 間延びした声が、辺りに響く。


「べ、別に。へ、へー……。何味なんだろうね」

「ピンクだから桃味なんじゃないですか? お嬢様って、意外と勘が鈍いですねっ」

「ちょっと、誰がよー!!」


 二人は猫の喧嘩みたいにふざけ合っている。


 私はため息をついて、スロット台の方に回ろうとした。いつものゲーセンでは、こういうものは地元のヤンキーで満席だ。誰もいないからこそ、ゆっくり見てみたかったのだ。


 ——ピコーン。


 その時、リズミカルな音が耳に入った。


 振り向くと、谷田貝さんがクレーンゲームにお金を入れていた。

 ……しかも、景品が"キスしたくなる飴"の台に。


「お嬢様ー! "これ"取りたいんですかぁ?」

「うん」

「へぇー。まぁー。ほぉー!」


 松園さんは口に手を当てて、ニヤついている。


「……松園、言っておくけど、部屋のお茶菓子、あたし達のも全部食べたでしょ?」

「ぎくっ」

「やっぱり……。ほんと信じられないっ」


 松園さんの頬には、よく見るとあんこが付いていた。


「……部屋に帰っても甘いものないでしょ? だーかーらー。これ取りたいの!!」

「左様でございますか……」


 痛いところを突かれたようだ。

 松園さんは何も言い返せなかった。


 谷田貝さんが狙っている飴の袋には、緑色の輪っかが付いていた。

 そこにアームを通して、ゲットする必要がある。


 谷田貝さんは最近、クレーンゲームが上達してきた。

 隣で見ていて感心するくらいに。


 私は彼女に近寄り、行く末を見守ろうとした。


「あっ」


 ——ゴトン。


 ——なんと、谷田貝さんは一発で飴をゲットしてしまった。

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