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クラスの人気者女子にクレーンゲームの景品を取ったら、やけに距離が近くなった  作者: 宮野ひの


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第29話 憧れの人

 そう。直感が私の大好きなインフルエンサーだと言っている。

 彼女以外、考えられなかった。


 目の前の女の子は、何度か瞬きをする。


 ゲーセンの喧騒がやけに遠く感じられた。


「ウチのこと知ってるの? いや——」


 顎に手を当てて、私をじっと見つめる。


「バレちゃったか」


 舌をぺろっと出す。


 そのキザなしぐさは、元気そうな彼女によく似合っていた。


「……ファンです!」

「マジ!?」

「全動画見てます!」

「ほんと!?」

「トレタヨさんの動画のおかげで、クレーンゲームのコツを掴めました!」

「やったー。ってか、敬語じゃなくていいよ〜。お姉さん、名前は?」


 それから私たちは、自己紹介をした。


 ゲットした星型のクッションもそのままで。


 トレタヨさんは私の一つ下、中3ということだった。しかも、本名も教えてくれた。

 石井小町(いしいこまち)というらしい。白い八重歯が口元からギラリと覗いていた。


「じゃあ、お姉さんのことは、浜松(はままつ)さんって呼ぶね〜」

「さん付けなくてもいいよ」

「そんなわけにはいかないよ。第一、近いっての!」

「……」


 不覚。


 人とは物理的に距離を置いて話す私が、彼女に吸い寄せられるように近づいていた。


「ごめん」

「別にいいけど」


 トレタヨさんは頭をボリボリとかく。


「ふーん。そっかぁ。お姉さんって、オフ会とかでも見たことない顔だなぁ。……ねぇ。来たことないでしょ?」

「うん」


 トレタヨさんは、定期的にオフ会を開催していた。

 だけど勇気が出なくて、足を運ぶことは今までなかった。画面越しの距離感が、心地よいとさえ思っていた。


「そっか。でもここで会えたのもなんか運命感じるね?」


 トレタヨさん——いや、小町ちゃんが急に私に向き直ると、なんと手を握った。

 キュッと優しく、包み込むように。


「あっ。顔、赤くなった」

「……」


 年上の威厳がまるでなかった。


 私は突然の行動や、急な距離の詰められ方に弱いのかもしれない。


「おもしろー。ウチって、ウチのこと好きな人、めっちゃ好きなんだよねー」


 小町ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。


「ねぇ、浜松さん。ウチの動画に全部高評価って付けてる?」

「う、うん。あっ、でも昨日投稿した動画にはまだ付けてない……」

「ダメじゃん! 今日の夜まで押してよ!」

「は、はい……」


 小町ちゃんは強引だ。遠慮がなく、物怖じもしない。

 同じくらいの背丈だから、唇が触れてしまいそうな距離感。き、気まずい。


 普段の私だったら、押して、すんとした顔をするかもしれない。


 だけど、憧れの人だからできなかった。

 されるがまま、ギュッと目をつぶることしかできなかった。


「——何してるの?」


 冷たい声。ぞっと身の毛が立つようだった。


 小町ちゃんではない。もちろん、私が言ったわけでもない。

 目を開けると、小町ちゃんの向こう側に——谷田貝さんがいた。


「あっ」

「ねぇ。誰、その子?」

「んんっ?」


 小町ちゃんが振り向くと、谷田貝さんと目が合う。


「んえー!? お姉さんの知り合い?」


 退くように、そう言った。


 ぐいと、谷田貝さんが私たちの間に割り込んでくる。


「浜松、この人誰?」


 眉をひそめた、険しい顔。


 きっと、みんな混乱している。もちろん私も。


 私は"友達"に、憧れのインフルエンサーの紹介をすることになった。



◇



「……へー。"石井さん"が、浜松が好きな動画投稿者なんだ」


 これ以上、ゲーセンで話すのは迷惑になると思って、私たちは裏路地に避難をした。

 もちろん、景品の星型のクッションも抱えて。


 この路地裏は、いつの日か谷田貝さんのほっぺにキスをした場所だ。

 少しだけ意識する。


 だけど、今の雰囲気的に長く浸っていることはできなかった。


 明らかに、谷田貝さんはご機嫌斜めだ。


「はい。そういうことですねー! っていうか、ひかるさんは——」


 小町ちゃんが腰に手を当てながら言う。


 相変わらず、サングラスは胸元にかけたままだった。


 ……小町ちゃんって、私のことは"浜松さん"って名字呼びなのに、谷田貝さんのことは、下の名前呼びなんだ。


「——ねぇ。気になる! それ、何?」


 土埃が舞う。


 小町ちゃんが、人差し指で私たちを指した。


 ——谷田貝さんが、私の腕にギュッとしがみついていたからだ。

 まるで屋台のおもちゃのよう。何故か私を手放そうとはしなかった。


「もしかして、二人って恋人同士なんですか?」

「ち、違う!」


 否定したのは私だった。


 ぬるい風が小町ちゃんの髪を揺らす。


「谷田貝さんは……友達」


 そう。それ以上でも以下でもない。


「それにしては、取られたくないっていう独占欲が大きすぎないですか?」

「う、うるさい」


 谷田貝さんの声はか細かった。


「そんな、取って食べたりしないですよー」


 小町ちゃんは腕組みをする。物言いがはっきりしていて、すごい自信だ。


 これはきっとクレーンゲームが上手いことに比例しているのかな。

 私も得意な方だけど、そんなに堂々と立っていられない。私は小町ちゃんが羨ましかった。


「浜松さんはね、ウチのファンなの」


 ドヤ顔だった。


「だからね、ひかるさん。"ごめんね?"」


 小町ちゃんは胸の前で手を合わせて、可愛くウインクをした。

 これは何? マウント?

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