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クラスの人気者女子にクレーンゲームの景品を取ったら、やけに距離が近くなった  作者: 宮野ひの


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第28話 ゲームセンターの女の子



◇



 待ちに待った次の週末。私は一人でいつものゲーセンに来ていた。


 今日は谷田貝さんのバイトとかの用はない。一日フリーな日だ。


 さすがは土曜日。いつもよりも人が多い。


 カップル、友達同士、親子連れなど、さまざまな客層が店内に入り乱れている。人混みは得意じゃない。


 けど、お客さんが多いということは、それだけチャンスにも恵まれていることになる。


 目の前の20代くらいの女性が、ウサギのキャラクターが描かれたコップを取ろうとしていた。アームの力が弱いようで苦戦している。

 あれを取るのは、最低でも10回以上はプレイしないといけないだろう。女性には悪いけど、こういう気付きがたくさんある。学ぶことは後々チャンスにも繋がる。


 店内をぐるりと回ると、三本爪キャッチャーでイルカのぬいぐるみを取ろうとしている男性がいた。

 隣には、小さい女の子がハラハラしながら見守っていた。見る限り、お父さんと娘と言った感じだろう。


「お願いお願いお願い〜」


 女の子は地団駄を踏んで、お父さんの勇姿を見つめていた。


 男性は無言で険しい顔をしながら、イルカのぬいぐるみに照準を合わせていく。

 ボタンを押した後、私も隅の方に隠れて、行く末を見守った。


 アームがゆっくり下がって、景品を掴んだ。

 アンバランスだけど、逆にそこが良かったのか、イルカのぬいぐるみはすっと持ち上がった。やった。


「わぁぁぁぁ! パパすっごーい!」

「良かった! やっと取れた!」


 少女はすぐさま取り出し口に手を入れて、もふもふのイルカを抱き寄せた。

 この世で一番幸せそうな顔をしていた。


 私も勝手にホッとする。無事に取れて良かったね。


 女の子とお父さんは、手を繋いでゲーセンを出ていった。


 ふと思い出してしまう。


 私が谷田貝さんに、とさかちゃんを取った日のことだ。

 彼女がぬいぐるみを抱きしめて喜んだ時、私も自分のことのように嬉しくなった。


 心の奥でキュッと芽生えたこの気持ち。一体、なんだろう。


 きっと、あのお父さんは、娘に対して、こんな気持ちを持つことはないだろう。


 今、隣に谷田貝さんがいないのが、酷く寂しいことのように思えた。


 ぽつりぽつりと店内を巡回していくと、


「あっ」


 このゲーセンでは、今まで見たことのなかった、たこ焼き台のクレーンゲームがあった。


「……」


 周りに人はいない。


 ジリジリと歩み寄り、ガラスの中を覗いた。


 なんの変哲もないたこ焼き機が、白く透けるセロファンに周囲を囲まれていた。


 穴の一つは赤く塗られていた。ピンポン玉は真横に3〜4個散らばっている。


 景品は大きな星型のクッションだった。シンプルで可愛い。私好みのものだった。


 迷わずに100円玉を入れた。アームを動かして、ピンポン玉をすくう。


 あれだけ谷田貝さんの家で練習したんだ。


 きっと、前よりは上手くなっているはず……だろう。


 微かな期待を抱いていた。


 しかし、1回、2回、3回と繰り返しても、お目当ての赤い穴にピンポン玉が収まる気配がない。


 手に汗を握ってしまう。


「うぅぅぅ……。くわばら。くわばら」


 あまりの悔しさに、つい大きな声を出していた。


 ハッと周りを見ると、男性の店員さんがまじまじと私を見ていた。急に恥ずかしくなる。


 谷田貝さんと、ずっといたからかな。

 気づけば、彼女の思ったことをすぐ口にする性格が、私にも移ってきた気がする。


 谷田貝さんだったら悔しい時、絶対声に出していたはずだ。きっと星型のクッションを睨みつけながら。


 あまり大きな声を出さない私からすると、悔しさを言葉にするという行為は——正直、気持ちが良かった。


 自分の中にストレスを溜めっぱなしにするのはよくない、ということなのかな。


 谷田貝さんと一緒にいると、気づかされることばかりだ。


「……どうかしたの?」


 ビクッ。完全に迂闊だった。


 背後に人がいた。


 振り向くと、サングラスをかけたショートカットの女性がいた。瞳は見えない。


 制服を着ているから、多分、同い年くらいであることを察する。


「いや、この景品、中々取れなくて……」

「あー。たこ焼き器のクレーンゲームかぁ。ちょっと難しいよね」


 彼女は私の横に並んだ。香水のいい香りがする。

 髪はサラサラで、肌はこんがり焼けていた。


 ——あれ。なんか、初めて会った気がしない。


 なんで、そんなことを思うんだろう。


 つい、まじまじと彼女を見つめてしまっていた。


「なーに?」

「いや、なんでも……」


 気まずくなり、目を逸らす。その高い声が鼓膜を直接震わせた。

 んっ? いやでも……。


「あとちょっとだね! ここで諦めたらさ、勿体無いよ」


 彼女はガラスを指で指した。


「それはわかってるけど……」


 上手くいかないんだからしょうがない。


「ふーん。じゃあさ、ウチが教えてあげようか?」

「え?」


 もう一度、まじまじと彼女を見つめた。


 細身ですらりとした体型をしている。口元は自信ありげに、弧を描いていた。


 室内でサングラスをかけている人って怪しい。私の直感がそう囁いていた。


 普通だったら、断っていたはずだった。


 それくらいの危機管理能力は私にだってある。


「お願い……します」


 だけど、口からするりとそんな言葉が出ていた。

 自分でもびっくりだった。


 彼女はにこりと笑う。サングラス越しに目を細めた気がした。

 大人っぽい仕草に違和感を覚える。きっと彼女が年下であることを私は確信してしまう。


 名前も聞いていない。出会って1秒の女の子。


 彼女はお金を入れて、慣れた手つきでアームを動かした。

 私は黙ったまま、行く末を見守った。


 鼻歌なんかを歌っている。流行りのJ-pop。アイドルソングで、キャッチーな歌詞が特徴の歌だった。


 アームがピンポン玉を掴んだ。オレンジ色なのに、電気に照らされて、白っぽく光っていた。


 アームがたこ焼き器の上で止まった。この束の間の数秒がたまらない。


 アームが開くと、ピンポン球がくるくると回って、落下する。

 私たちをこうやってたぶらかす。


 やがて赤い穴に吸い込まれるように収まった。えっ。ゲットだ。


 クレーンゲームからは、陽気なファンファーレが流れる。


「イェイ。取れた!」


 彼女はサングラスを取って胸にかけると、私にハイタッチを求めた。


 戸惑いながらも、手を合わせると、


 ——パチン。


 気持ちが良い音がした。


 ……私は彼女の正体に気づいてしまった。


「もしかして、トレタヨさん?」

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