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クラスの人気者女子にクレーンゲームの景品を取ったら、やけに距離が近くなった  作者: 宮野ひの


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第25話 浜松をゲットしたい

 谷田貝さんのとろける顔を見ていると、学校での姿は嘘のようにも思えた。 

 口元がだらしなく緩み切っている。


 クラスメートが今の彼女を見たらどう思うだろうか。


「……谷田貝さん」

「……へっ?」

「アームの……掴むコツ……わかった?」

「……う、うん」


 怪しげな雰囲気を打ち消すために、投げかけた質問だった。


 谷田貝さんは我に返ったように、遠くを見つめる。


 やがて彼女はゆっくりと起き上がり、景品取り出し口の空いたスペースに足を下ろした。

 白い靴下がぶらんぶらんと揺らしている。


「えっとね。浜松。重心がある部分?を持ってもらうと安定するね。うん」


 もっともらしいことを言う。

 こういうところは真面目なのだ。


「少し、休憩しない?」

「……えー。もっと」

「……もしかして、ハマってない?」

「えっ。やめてよ! そんなことないって!」


 谷田貝さんは俯き、さらに足をバタバタと動かした。


「そこ、息苦しいでしょ」

「まぁね」

「なら出なよ」

「えー。……浜松もこっち来たら?」


 なんてことを言うんだ。


 一息つくなら、絶対、部屋側のほうが良い。


 誰が好き好んで、ガラスの中に行かなくちゃいけないんだ。


 そう、頭ではわかっているのに。


 私は静かに頷いていた。


 花に群がる蝶のように、本能的に抗えない魅力があった。


 クレーンゲーム台のガラスを開けると、もわっとした空気が肌に触れた。

 谷田貝さんが、私が座るスペースを開けてくれる。


 よいしょと彼女の横に座ったら、どんな顔をしていいかわからなくなった。


「なんで、体育座りしてるの?」

「……なんとなく」

「あたしみたいに自由にしたら良いのに」


 谷田貝さんは手足を伸ばしていて、解放的だ。

 太もものあまりの白さに、反射的に目を逸らした。


「あたし達、景品みたいだね。えへっ。誰に取ってもらえるかな? 楽しみっ」


 そんなことを彼女が屈託なく言う。


 ……。


 なんとなく、谷田貝さんが男の人から告白される図が頭に浮かんだ。

 複数の男子が頭を下げて、彼女に手を伸ばす。


 ……谷田貝さんのお眼鏡に叶う人がいれば、OKしてしまうのだろうか。


「谷田貝さんは引くて数多でしょ」

「ふぇ?」

「今だって、誰かが目の前を通ったらさ……すぐに取りたいって思っちゃうよ」

「浜松?」


 谷田貝さんの目がまたたく。


 しまった。


 柄にもなく、真面目に答えてしまっていた。


 なんてね、と茶化すこともできない。


 私は情けなくなって、自分の膝に顔を埋めた。


「ははーんそういうこと?」


 谷田貝さんの声は弾んでいた。


「あたしだったら、浜松をゲットしたいって思うけどなぁ♪」


 彼女が私の名前を呼んだ時、反射的に顔を上げていた。


 ふわりとした甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「えへっ。それこそ、中々取れないと、意地になって、3万円以上つぎ込んじゃうかも?」


 谷田貝さんが私の髪に触れた。横に流れていた髪を、そっと耳にかけてくれる。


 ご満悦そうな顔をしているから、きっとピアスがいい位置に見えているのだろう。


「……きっと千円くらいで取れるよ」


 可愛くないセリフ。自覚はあった。


「それって、自分から穴に落ちてくれるってこと?」

「そういうわけじゃないよ」


 谷田貝さんって意外と天然?


「……だったら、全財産でも出すわよ」


 真剣な瞳だった。グッと口をつぐんだら喉から変な音が鳴った。恥ずかしい。


 だけど、彼女は気にする素振りもなかった。


 ぽたりと床に汗が落ちた。さすがに暑すぎる。


 クレーンゲームの明かりが、私たちを鮮やかに照らしていた。


「……浜松、可愛いね。顔、真っ赤じゃん」

「……谷田貝さんだって、茹でダコみたい」

「もー。仕方ないじゃんっ」


 彼女は手を扇のようにパタパタと仰ぐ。先ほどよりも頬が火照っていた。


「ねー。浜松ってさ、結構、バッサリ言うよね」

「そう? 自分ではわからないけど」

「まぁ。変にかしこまられるよりは全然いいけど。あたしだって、学校では猫かぶってるし」

「そんなこと……」


 ないよって、言えなかった。


 あの、誰にでも見せる愛想のいい笑みは、天性のものではなくて、努力の賜物ということもあるのかもしれない。

 そんなことに今気づいた。


「何よ。はっきり言いなさいよ」

「いて」


 肘で脇腹を押された。谷田貝さんの顔がほころぶ。


「……浜松が変によそよそしい感じだったら、ここまで仲良くなんなかったかもね」


 そんな嬉しいことを、彼女がさらっと言う。


「おーい。あれ。あたし良いこと言わなかった?」

「感傷に浸ってたの……」

「えー。そんな真顔で?」


 谷田貝さんが白々しく耳に触れてくる。


 ビクッと肩が反応してしまったのが恥ずかしかった。


「えへっ」


 彼女は手を引かない。


「ちょっ、離してよ」

「やだ。えい」

「んっ。バカ……」


 だんだんとガラスが曇っていく。


 谷田貝さんは私の耳を怪しく触った。親指で擦ってみたり、小指を耳の出っ張りにちょんっと触れてみたり。

 耳全体が熱を持ち、ひどく敏感になっていた。


「んっ……はぁ……」

「浜松……」


 バランスを崩して、ペタンと背中が床につく。

 谷田貝さんは私の上に乗っかっていた。

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