第21話 たこ焼き台
◇
「たこ焼き台のクレーンゲームはね、運の要素がかなり強いんだ。ピンポン玉が当たりの穴に入るのを、ただ祈るしかない。だからテクニックはほとんど必要ない。ある意味、初心者向けのクレーンゲームとも言えるかもね」
「へぇー。そうなんだ」
「なるほど」
……。
ソファーの真ん中に私が座り、右隣に谷田貝さん、左隣に松園さんがいる。
二人は私のスマホを覗き込むように、身を乗り出していた。
肌と肌が触れ合うくらい距離が近い。
いや、現に谷田貝さんは私の腕に触れている。爪が長くて、咄嗟に動いてしまえば、鈍い痛みが走りそうだ。
パーソナルスペースを確保するどころではなかった。
「……ほら、ハズレ」
スマホ画面には、『残念』という大きな青文字が表示されていた。
私は今、二人の前でたこ焼き台のクレーンゲームに挑戦している。景品は熊のキャラクターの時計だ。
けれど、ピンポン玉は一度バウンドすると、面白いほど横へ飛んでいった。
「うー。ムカつく! 浜松、もう一回チャレンジしてよ!」
「……わかった」
画面に表示された『リトライ』ボタンを押す。
私がプレイしているクレーンゲームのアプリは初回ダウンロード&登録をすると、なんと10回分も無料で遊べる。
ゲーセンでは、まずあり得ない光景だ。ありがたく1回ずつ挑戦させてもらう。
「……またハズレ! ムキー!」
「お嬢様、落ち着いてくださいよー」
だけど、そう上手くはいかない。
たこ焼き台には、これと言った必勝法がない。アームを動かし、ピンポン玉を一つずつすくって穴に入れるしか方法はなかった。
歯痒い。
「むがが! 松園! やめてっ」
「梅昆布茶飲んだら落ち着きますってー」
……。
松園さんがテーブルに置いてあったコップをつかむと、谷田貝さんの口元に寄せた。
彼女は苦しそうにもがいている。
……松園さんって谷田貝家のお手伝いさんなんだよね?
その娘に、気さくなギャングみたいな接し方をしているけど、大丈夫なんだろうか。
お手伝いさんって、もっとかしこまったイメージがあった。
きっと私たちと歳が近いからっていうのもあると思うけど。
「ふぅ。松園ったら、強引なんだから!」
谷田貝さんは押し付けられたコップをテーブルの上にガンっと置いた。
「ってか、浜松、この数字6ってなに?」
「ああ。これはね。今、この台を覗いているユーザーの数だよ。私たちが途中でプレイを諦めたら、すかさずハイエナのように景品を横入りしてくるよ」
「何それ! 恥も外聞もないの!?」
クレーンゲームとは、そもそもそういうものだ。
100円を入れて景品を狙う人もいれば、勉強のためにその後ろで、じっとプレイを見ている人もいる。
アームが弱ければすぐに立ち去るし、あと少しで取れそうな景品を前の人が諦めたら、心の中で感謝しながらプレイしてしまう。
クレーンゲームは弱肉強食の世界なのだ。
私はあと6回、無料でプレイできる。
これくらいあれば、一つくらいピンポン玉が当たりの位置に入るだろう。
正直、たかを括っていた。
だけど。
5、4、3、2……。
何回プレイしても、一向に穴が埋まる気配がなかった。
……やばい。やばい。やばい。
ピンポン玉は隅の方に山積みになっていた。
「ちょっと! 見ている人が30人になってるんだけど。みんな、暇すぎじゃない!?」
「こっちの数字は"12"って出てるんですが、なんなんですか?」
松園さんが声を上げる。
「……これは次にプレイするために予約している人の数。……つまり私たちがここで諦めたら、この12人に景品を横取りされてしまうの」
谷田貝さんと松園さんが、二人して顔を見合わせた。
口を開けて、恐ろしいものを見る目をしていた。
「ぜ、絶対、取れるから……大丈夫!」
そう。私は今まで数々のクレーンゲームをプレイしてきた。
谷田貝さんが欲しいものだって取ることができた。
だから、この熊の時計だって、きっとゲットすることができるはずだ。
「あぁ……」
1回のプレイで、ピンポン玉を取り損ねてしまった。無駄死にだ。
空のアームは虚しく動き回る。
焦るな。焦るな。焦るな。
そう思っても、胸のざわめきはなかなか消えてくれなかった。
……あれ。私、こんなふうだっけ。
増えるユーザーの閲覧数。
谷田貝さんと松園さんが、心配そうに私に目を配っているのがわかった。
いつの間にか、プレイできる回数は残り1回になっていた。
クレカは持っていないから、一旦無料枠で終わりにしないといけない。ラストチャンス。
「……大丈夫」
そう自分に言い聞かせてみる。
震える手でアームを動かす。良かった。今度はオレンジ色のピンポン玉をしっかり掴んでいた。
アームが右に移動すると、たこ焼き台の真上で止まった。数秒という時間が、恐ろしいほど長かった。
アームが開き、ピンポン玉が落下した。くるくる回る。バレリーナのようだ。




