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クラスの人気者女子にクレーンゲームの景品を取ったら、やけに距離が近くなった  作者: 宮野ひの


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第19話 カップル同士みたいなやり取り

「あっ。なんで、そっち行くの」


 ソファーからお尻を浮かせて、横にズレた。谷田貝さんとの間に距離ができる。


「私パーソナルスペースは広い方だから」

「なぁにそれ」

「……他人に近づかれると不快に感じる個人的な距離のこと」

「ふーん。そういうもん?」

「うん」

「……あたしでもなんだ?」


 谷田貝さんがジト目をする。言い方がずるかった。


「あっ。今、目そらしたー」

「いちいち指摘しないで」

「だって、浜松が意地悪だから」


 どっちが。


「……あたしって、浜松にとって他人?」

「えっ」

「だって今、"他人に近づかれると不快に感じる"的なこと言ったからー」


 彼女は少し怒っていた。


「……た、他人って、自分自身を除いた人をいう言葉だからその……」


 ごにょごにょと自分でも支離滅裂なことを言っている自覚はあった。


 谷田貝さんは他人じゃない。だけど、少し距離が欲しかった。心臓がうるさい。


「……なんかね、その言い方だと、浜松からしたあたしは、知り合い以下の人種って感じがしたの」


 谷田貝さんはしゅんと俯いた。


「——そんなわけないよ。谷田貝さんは……その、友達だから」

「えっ!!」


 彼女は口を大きく開けて、上目遣いで私を見た。


「浜松、今、友達って言った? なんか浜松が言うと、いい響きっ」

「……」

「ねぇ。もう一回言って?」

「……やだ」


 谷田貝さんは目を細めて、唇をとがらせた。いつもよりも開放的になっているのは、自分の家だからだろうか。


 私は彼女のテリトリー内に自然に侵入していた。


「まっ、いっか。友達ってそんな、言葉でいちいち確認するもんじゃないしね?」

「……そうなの?」

「うん」


 知らなかった。


 私には友達がいないから、普通がわからない。


 定期的に「今、友達だよね?」みたいに確認する儀式があると思っていた。


 そこで「ううん友達じゃないよ」なんて言われたら、知人に格下げになるものだと思っていた。


「……じゃあ、友達って言葉じゃなくて、どうやって確認するの?」

「えぇー? そうだなぁ」


 谷田貝さんは少し面倒くさそうだった。

 人差し指を顎につんと当てて、上を向く。


「わかんないっ」


 ウインクするみたいに、軽いテンションだった。


 きっと人気者の子ほど、友達の定義とか考えることはないのだろう。

 いろいろひねくりまわして考えずに、その場を楽しめばいいんだ。


「ってか、浜松、今日耳出てるじゃんっ!」


 肩が僅かに動く。


 そうなのだ。


 私は放課後、彼女と待ち合わせをした時から、おかっぱストレートをやめて、髪を耳にかけていた。


 あらためて言われると、どうにも照れ臭かった。


「いいじゃん。ピアスも見えるし。かっこいいいよ」

「……ありがと」


 彼女はストレートに褒めてくれる。私にはできない技だ。


 素直な物言いをするから、谷田貝さんはきっとみんなに好かれているのだろう。


 ——魔がさした。


 人は人に影響を受ける。


 素直な谷田貝さんの側にいると、ちょっとだけ本音をこぼしたくなった。


「……かわいいよ」

「えっ?」

「谷田貝さんは……」


 どちらかというと彼女にかっこいいという言葉は似合わない。


 大きな瞳に、守りたくなるようなベビーフェイス。

 かわいいという言葉は、まるで谷田貝さんのためにあるようだった。


「えっ。あたしのこと、かわいいって言ったの!?」

「——っ」


 彼女は水を得た魚みたいに、はしゃいでいる。

 頰に手を当てて「やったー」なんて言っている。


「……別に言われ慣れてるでしょ」

「まーね」


 流し目で私を見る。


 ほら。


「でも、なんか今のはギュンってきたかもっ」

「何それ」

「わかんない。あたしの体に聞いて?」


 チラッと目線を下げると、谷田貝さんの胸が目に入った。


「うわーーー。浜松。やらしーーー!」

「どうしろと!?」


 もう、お手上げだ。降参したい。


「うそうそ」


 谷田貝さんは笑いを収め、息を整える。


「——ねぇ。あたし、浜松のことかっこいいって言うからさ。ねっ。かわいいってもう一回言ってよっ」


 彼女はぐいっと顔を近づける。

 パーソナルスペースも何もかも乗り越えてくるような勢いだった。


「うわぁ。面倒そうな顔してるー」


 ……当たり前だ。私は非常に困っていた。


 こんな甘々な雰囲気になんて慣れていない。

 まるでカップル同士みたいなやり取りだ。


「はい。はじめー。浜松、かっこいいよ!」


 私に拒否権はなかった。


 第一、谷田貝さんの言葉には、気持ちがまったくこもってない。


 私は心の中で小さくため息をついた。


「……谷田貝さんは、かわいいよ」


 じっと彼女を見る。

 ゆっくりと、焦らすように言葉を口にした。


「……かわいい」


 本音が次々と口から溢れる。


 困ったことに止まらなかった。


「うん……」


 彼女はしおらしそうに俯いた。


 自分の唇をふにっと親指と人差し指でつまんでいる。


 あれ?

 なんか、雰囲気おかしくない?


 高級そうなソファーの上に、女子高生が二人。密室。体温は上がっている。


 気づけば、私のパーソナルスペースはじわじわと侵略されていた。

 ……だけど、思ったよりも不快じゃない。


 沈黙が走る。何も言葉が出てこない。


 私は石のように固まっていた。

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