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クラスの人気者女子にクレーンゲームの景品を取ったら、やけに距離が近くなった  作者: 宮野ひの


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第15話 プレゼント



◇



「ふー」


 ベッドに寝転がって、天井を見た。自分の部屋の、なんてことのない景色。


 右手を見ると千円札が9枚、確かにあった。

 谷田貝さんからもらった、バイト代だった。


 クレーンゲームの先生になってと言われたことでもらったお金だ。

 健全であるはずなのに罪悪感を感じる。


 それは何でだろう。うとうとしたまぶたの裏に、谷田貝さんのおでこにキスをした光景が浮かぶ。


 そのままベッドに起き上がった。ぎしりという音が部屋に鳴り響く。


「……やっぱり先生が、生徒にキスするのは良くないよね」


 口に出した途端、本当にいけないことをしているような気分になった。


 目を固く閉じると、視界が揺らいだ。


「……今度から、"そういう"ことは一切しないようにしないと」


 谷田貝さんはクラスの人気者だ。いや、学校で一番目立っていると言っても過言ではない。


 初めて彼女とゲーセンで会った時、男子たちがじっと谷田貝さんを見ていたのを今更ながら思い出した。


「今日、路地裏でしたこと……誰かに見られてたら、やばかったんだ」


 軽率な行動だった。


 谷田貝さんが、クラスの陰キャからキスをされていた。

 なんて同じ学校の子に見られて噂なんか流されたら最悪だ。谷田貝さんに傷がつく。


 反省しないと。


 それでも、谷田貝さんのおでこにキスをした時、ドキドキしたのは紛れもない事実だった。

 一線を超えた途端、急に緊張が押し寄せ、手のひらが汗ばんだ。


 クレーンゲームで景品が取れた時よりも、ドーパミンみたいなものが出ていたと思う。


 ……それなら、あのゲーセンにいたカップルは、ぬいぐるみも取ったし、キスもしていたし、興奮MAXなんじゃないかな。


 ……。


 考えが脱線したところで、私は大人しく目を閉じた。


 明後日の放課後も、谷田貝さんの"バイト"が入っている。

 気を確かに挑まないと。


 ——その日はしっかり眠ることができた。


 朝起きた時、ベッドに9千円が転がっていて、インモラルな寝起きで一日がスタートすることになった。



◇



 次の日の放課後。


 ゲーセンのとあるクレーンゲーム台の前に、谷田貝さんと私は肩を並べて立っていた。


「……」

「……」


 今まさに"国民的猫型ロボット"のフィギュアを取ろうとしていた。


 店内の冷房は一昨日よりも強くなっていた。夏が本格的に近づいているのを感じる。


 アームをゆっくりと動かすと、谷田貝さんの視線も一緒についてくる。

 まるで親鴨についていく子鴨のようだった。


「——箱の景品なら、片方のアームを端ギリギリにかけると、動かしやすいよ」

「ふむふむ」


 彼女に説明した通りに動かすと、箱がぐっと大きく動いた。

 内心ほっとする。


「それじゃ、今度は逆のアームで箱の端を掴むよ」

「なるほど。交互に動かすって感じね」


 谷田貝さんに見られながらのクレーンゲームは緊張する。


 それでも、好きなことだから、そんな緊張よりもワクワクが勝った。


 何度かアームを動かすと、フィギュアの箱が斜めに傾いた。チャンスだ。


「ここからは、奥の面を狙っていくよ。見てて」

「うん……」


 フィギュアの箱の側面ではなく、縦側の面に狙いを定めていく。


 クレーンゲームは少しでもアームがズレると、上手くいかなくなる。

 運が悪かったり、力加減を見誤ると、景品がスタート地点に元通りすることだってある。


 ゆっくり、慎重に。


 アームが下りるとフィギュアの箱をなぞった。


 まるでスローモーションのようだった。


 箱がくるりと回転して、ごとんとゲット口に落ちた。


「やったーーー!!」

「ちょっ、苦しい」


 谷田貝さんから抱きつかれた。ギュッと、とさかちゃんにするようなハグ。


 これこそが本来のハグの仕方なのだろう。


 ハグしていい?って聞いてからするのは、やっぱり邪道だ。妙な雰囲気にもなるし。


 私はそのままフィギュアをゲット口から取り出した。


「取れたねっ」

「うん……」

「何、ぼーっとしてるの? あたしにくれるの?」


 キュルキュルな目で見つめられた。


 最初から、そうするつもりだった。


 だけど、先に言われると、何も動けなくなる。


「……これは私用」

「ちぇー」


 谷田貝さんは、唇を尖らせた。


「浜松って好きなものをすいすい取れて羨ましいなー」

「そう?」

「うん。なんかストレス発散できそうじゃん!」


 どうだろう。


 景品が取れると確かに嬉しい。


 だけど、すぐにゲットできるほど、あまり気持ちよくはなれなかった。


 あーあ。すぐに取れちゃうんだという予定調和。すぐに退屈になってしまう。


 それよりも……。


「やっぱりこれ、谷田貝さんにあげる」


 私は猫型ロボットのフィギュアを彼女に差し出した。 


「いいの?」

「うん」


 谷田貝さんに持っていて欲しくなったのだ。


「……ありがとう!」


 彼女はとびきりの笑顔で受け取った。もし犬のように尻尾があったら、ぶんぶん振っているのがわかったことだろう。


「……」


 人にプレゼントを贈るのって、嬉しいものなんだ。ここ最近でわかったことだ。


 もしかしたらクレーンゲームで景品をゲットする瞬間よりも——気持ちいいかもしれない。


 プライズを取るよりも、誰かにあげるほうが——いや谷田貝さんにあげるほうが、ストレス発散になっていると言ったら笑うだろうか。


 人に何かプレゼントする行為は、損するものだと思っていた。


 お金も無くなるし、手元にものもない。いいことなんてない。

 みんな見栄を張るために、していることだと思っていた。


 だけど、谷田貝さんにプレゼントしてわかった。

 私の手元には何も残ってないのに、胸がぽかぽかしてあたたかくなる。喜んでもらうと、もっと、笑ってほしくて、何でもしてあげたくなってしまう。

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