吾輩、大逆転
吾輩は魔王である、でなかったら既に漏らしていよう
竜種は強い。魔王の死因の五割は竜種との争いに敗れる事である。因みに三割が人間で、二割が同士討ちである。
その上賢い。言語を操り、策略を練り、罠を張ることすらある。
だが一番恐ろしいのは、奴等が群れることである。竜種に近い力を持つ魔物は幾つかおるが、群れをなし、助け合って生きるのは竜種のみだ。特に血の繋がりを特別視する傾向にある。
《魔王ヨ、私ノ子供ヲ幾匹モ殺シテオイテ話シ合イダト?》
はい詰んだ。吾輩の魔王生、完。
いや、待て待て。
まだ終わったわけではない。そもそも古代竜とは言え、レベルはたったの三。吾輩なら一息に殺せる。
だが問題は配下共だ。ニブルヘイムは上位竜種共を盾の様に配置している。奴を殺しに向かえば、その隙に他の上位竜種に皆殺しにされよう。
他の魔王で有れば魔法で結界か何かを貼れば良いのだろうが、吾輩の魔力と知力では中位竜種のブレスすら防げるか怪しい。せめて地上に降ろすことができれば・・・。
「ああ、そうだとも。我等は言葉が通じ、考える知能がある。無理に暴力に傾く必要はあるまい」
《ドノ口ガ。一切ノ会話無ク我ガ子達ヲ殺シタナハ、貴様等ダロウ》
はいその通り。一切反論できぬ。
しかし思ったより会話をしてくれる。
いや、思い返せばそもそも吾輩が起きるまで、攻撃を始めなかった事自体おかしいのだ。本当に殺し合いに来たので有れば吾輩が眠っている時が一番の好機であるのだから。
それに、この魔力・・・。ふむ。
「その通りであるな。ニブルヘイムよ。反論は無い。」
《!・・・》
「故に殺し合おう。背後の配下共は死んでしまうが仕方ない。代わりに貴様を殺した後、上位竜種を十匹ばかり配下としよう」
「ごぶ!?」
「・・・黙リナサイ、一号」
うむ、二号はわかっておる様だ。
「ではどいつから死にたい?これだけの戦力だ。万に一つではあるが吾輩を殺せるやも知れんぞ?」
わかり切った挑発だ。賢き竜なら乗る事はないだろう。だが・・・。
「・・・ガァァアア!!!」
何処にでもいるのだ愚か者とは。例えそれが竜種でも、魔王でもな。そして・・・。
《ッ!ヤメナサッグァっ!!》
ニブルヘイムの巨体が轟音を上げ、墜落する。
これだけの竜種が動いたのだ。人間共の街にも異変は届いているであろう。勿論吾輩達の迷宮にもな。
「遅れてしまい申し訳ありません、陛下。側近、只今参上致しました。」
「いや、良いタイミングである。よくやってくれた」
《伏兵カ・・・、ダガコノ程度デ・・・!》
「動くな。・・・貴様等もだ、雑兵共」
古代竜は側近よりも強い。特に吾輩の側近は頑強さと速度に特化している。不意を突き叩き落とす事は出来ても、拘束し続ける事は不可能であろう。
だが、良い所に堕ちてくれた。これなら配下共から離れずにニブルヘイムに手が届く。
「さて、形勢逆転であるなニブルヘイムよ。それで?言葉と武力どちらがお好みであるか?」
《・・・・降参ダ。子供達ヲ殺サナイデクレ》
吾輩、完全勝利である。
場所は変わって迷宮がある渓谷。吾輩と側近、そしてニブルヘイムのみである。あの場所に留まれば人間共が襲撃してくる可能性が高い。三つ巴の争いとなれば吾輩すら生き残れるか分からん故、早急に移動してきたわけである。他の竜種はニブルヘイムを通して山頂の竜の巣に帰らせ、配下共も今は迷宮の中で休んでいる。
これで漸く話ができる。
「やはり元々争う気はなかったのだな」
《・・・私ハ、コキュートストナッテカラ日ガ浅イ。ソレニ今ハ人間ノ侵入者モ増エテイル。争ウ価値ハ無イ。ダガ・・・》
「自らの子供がむざむざ殺されるのを見逃す訳にもいかなかったと」
「であるならば、最初から陛下に頭を下げ、配下に加われば良かったのでは?敵対しているとは言え、人間共の様に憎み合っている訳ではないでしょう。」
《勝機ハアッタノダ。他の古代竜ガ援軍ニ来テクレレバ魔王トテ敵デハナイ》
なるほどであるな。どうやら吾輩が思っていたより危ない状況であった様だ。今回の襲撃は寧ろ幸運であると言えよう。だが
「何故其奴らは来ない?吾輩が生まれた事に気付いておったのだろう?竜種が同族を、それも古代竜を見捨てるとは思えんが」
《我等ノ母ノ国デ、問題ガ起コッテイルラシイ・・・。ソレガ片付ク迄ハ加勢ハデキナイト》
「母の国・・・。あぁ、竜王国の事ですか。あそこの古代竜は魔王や人間と契約を結び国を治めているとか。確か大魔王ルシフェル様が担当されておられましたよね?」
「うむ。・・・だがしかし、彼の大魔王が治める地で問題とは・・・。竜王国と戦争でもする気であるか?」
そういえば大魔王ルシフェルも、今はティノール連峰ばかりに向き合ってはいられない。と言っていたな・・・。
まぁ、吾輩が心配する様なことでもあるまい。何かあれば向こうから連絡がある筈である。
「もう良い。その話は一旦置いておこう。今必要なのはこれからの話である」
《・・・私ハ死ヌ覚悟ハ出来テイル。ダガ子供達ハ貴方ノ配下トシテ生カシテ欲シイ。魔王ハ若イ竜ヲ殺サナイト聞イタ》
「無論、奴等は皆吾輩の配下にする。我々魔王の仕事は魂の循環を守る事。徒に数を増やし魂を独占する人間共や、死ぬ事なく自らの身体に魂を溜め込む古代竜は殺さねばならぬが、上位の竜種程度あれば殺す必要は無い」
《・・・感謝スル》
「だが問題は貴様である。古代竜とは言え有する魂の総量は魔王の半分にも満たん。故に今殺す必要は無い」
《!デハ・・・》
「だが、それは今の話。この先貴様が魂を奪い続ければ、いずれこの世に新たな命が産まれなくなる。それは避けねばならん」
「流石陛下。大変お優しい。」
「黙れ。・・・故に貴様は永劫、生存以外を目的とした殺生を禁止する。貴様の魂が循環を乱すその時まで吾輩の配下として働け。いつでもその首を立てる様にな」
《・・・・偉大ナル魔王陛下ニ感謝ヲ。私ハニブルヘイム。祖ハ母竜ユグレミア、竜鬼グリガラル。命尽キルソノ時マデ貴方ニ忠誠ヲ捧ゲマス》
「うむ。こき使う故覚悟しておけよ、ニブルヘイム」
「これからよろしきお願いします。ニブルヘイム。」
《アア、コチラコソ。・・・マサカコノ状況カラ生キ伸ビレルトハ・・・》
「なんだ?やはり古代竜と言えど死ぬのは怖いのか?」
《何百年生キヨウト、死ヌノハ怖イ》
「何百年とは、貴様一体幾つであるか?」
《・・・八百ヲ超エ、九百ニハ届カナイ》
「クソジジイでは無いか」
《・・・・・ババアダ》
知らんわ竜種の性別なんぞ。
しかし、思っていたよりだいぶ早くティノール連峰を掌握できた。竜種さえ従わせれば後は人間共だけである。勿論ニブルヘイムが裏切る可能性がないとは言えぬであろうが、まぁ、それはその時考えれば良い。場合によっては大魔王ルシフェルのところに行き、裏切らぬ様呪いをかけてもらうのも良いか。
いや、余裕があるうちに人間共の街を滅ぼすか。今は余裕でも、いつ次の問題が起こるか分からぬ故な。
取り敢えず。
竜種ゲットである!
《やあ、名も無き魔王。実は問題が起きてね。直ぐに竜王国に来てくれるかい?すまないけどこれは強制だよ》
人間共虐殺パーティーはお預けであるな。




