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Fランクダンジョンの平和な日常〜はじまりのワンルーム〜  作者: 弌黑流人
第一章 はじまりのワンルーム

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第32話 太陽のいない街

セシリアが勇者パーティに加わり、新魔王討伐の旅に出て半年が過ぎた頃、一報がもたらされた。新魔王を瀕死の状態に追い込んだものの、聖女セシリアを含む勇者パーティ一行(勇者、戦士、賢者)は全滅したという。


俺も含め、皆が悪い冗談だと信じられずにいた。しかし、勇者パーティ専属の荷物持ちや連絡係が4人の亡骸を聖教会総本山セイマルクへと連れ帰ったことは事実だった。悲しみに暮れる住民たちを、俺はモニター越しに眺めることしかできなかった。


聖女の逝去は、この都市から光を奪った。総本山セイマルクで執り行われる告別式の報せは、住民たちの心を静かな絶望で塗りつぶした。セシリアを敬愛していた者の半分以上が、最後に一目見ようと街を去った。


告別式の時刻、街に大鐘楼の音が響き渡る。残された者たちも一斉に手を合わせ、祈りを捧げた。俺もその静寂に合わせ、彼女専用のワンルームをモニターで覗き、普段使っていたであろう机にセシリアが好んだ紅茶を置く。湯気が立ち上り、彼女の不在が痛いほどに強調された。


「随分と、静かになったな」


紅茶は冷めていく。俺の管理するシステムがかつてのような活気ある魔力潮流を見せることはなく、街全体が抜け殻のように沈んでいた。


太陽を失った街に、住む理由は残っていなかった。かつてセシリアの背中を追いかけていた者たちは、哀しみを振り払うかのように、己の足で立つことを選び始めた。


彼らはダンジョンの恩恵に頼らぬ生活基盤を求め、遥か遠方の未開の地に新たな街を築き上げた。そこには彼ら自身の手による冒険者ギルドや商業ギルド、そして聖教会支部までもが作られたという。かつて俺が管理し、依存させていたこの街の機能は、彼らにとっては過去の遺物となりつつあった。


ゴーストタウンと化した都市の光景は、管理モニターを通じて見ても寂寥感が漂う。住人が減れば当然、迷宮の探索者も減り、システムへ還元される経験値も枯渇した。ランクアップの警告に追われていたのが嘘のように、今は静かな停滞が続いている。


「街が寂れるのは、管理コストが減るという意味では合理的だ。だが……」


俺は独り呟く。そして溜息をつき、都市の区画を強制的に縮小するコマンドを入力した。使われない広場、機能しない住居棟をシステムから切り離し、都市をコンパクトに収縮させる。


去りゆく者たちの背中を見送りながら、俺は改めて理解する。この街は、セシリアという聖女がいたからこそ機能していたのだと。彼女を失った今、このコアルームの周囲はただの広大な空き部屋に成り果てていた。


俺の怠惰な生活は守られた。だが、その平和はひどく薄味で、紅茶の苦味だけがやけに際立っていた。窓の外では、かつての賑わいを知るはずもない風が、空っぽの通りを吹き抜けていった。


活気を失った都市は、かつての迷宮の賑わいを夢のように語り継ぐだけの廃墟と化しつつあった。俺はここで、相変わらずモニター越しにダンジョンの深部を眺めている。


モニターに映る初級冒険者の動きは、あまりにも拙い。空振りし、転び、連携も取れていない。だが、彼らが命を落とすことはない。スライムやゴブリンの数は、俺の完璧な調整によって、絶妙な生きて帰れる緊張感の中に収められている。


「こんな感じで初級冒険者を育てるのもいいな」


今までのように効率や防衛という言葉に縛られる必要はない。俺は管理者として、ただ気まぐれに、あるいは暇つぶしのように彼らの成長を見守ることにした。


セシリアたちが去り、街の清潔を保つ者がいなくなった今、ダンジョン内には埃と魔力の残滓が溜まり始めていた。


「放っておけば俺の憩いの場が汚れてしまう……」


「よし、掃除のために、モンスターを生成するか」


俺は操作パネルを走らせ、新たに二種のクリーチャーを設計した。一つは、粘液で床や壁の汚れを吸収するクリーンスライム。もう一つは、武器の手入れや通路の磨き上げを得意とするポリッシュゴブリンだ。こいつらに戦う意思はない。ただひたすらに、迷宮の美観を維持するためにのみ存在する従順な執事たちだ。


各階層に配置されたクリーンスライムが、冒険者の足元を掠めて落ちた泥を飲み込み、ポリッシュゴブリンが壁の亀裂を修復していく。


「うん。これでやっと、余計な雑音と汚れのない空間になったな」


以前のような熱狂的なダンジョン運営ではない。

この街の片隅で、若き冒険者たちが拙い手つきで強くなり、それを俺が裏から整える。このささやかな日常こそが、今の俺にはちょうどいいのかもしれない。


俺は満足げにうなずくと、再び紅茶を淹れ、誰にも邪魔されない静かなダンジョン運営へと没頭していった。最下層の余剰魔力貯蔵庫で何かが胎動していることさえ、今の俺にとっては単なる背景ノイズでしかなかった。


ご拝読ありがとうございます。


この数年後に「〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜」につながっていくわけです。


あまり、すっきりするような終わり方ではありませんが、こういった背景あったんだなと思って頂ければ幸いです。


暑い日が続きますが熱中症に気をつけて乗り越えましょう!!

それではまた別のお話しでお会いしたいと思います。

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