第28話 啓示
「管理者様が、我々の信仰を認め、天からの祝福を下さる……!」
そんな噂が街に流れたのは、建築工事のクライマックスだった。俺は街の中央に、ホログラムと音響制御を駆使した巨大な虚像を投影することにした。
「セシリア、拡声器の準備だ。……俺が『管理者』として、神聖な御神託を告げる」
「えっ、マスターが自ら声を……!? かしこまりました、準備いたします!」
俺はボイスチェンジャーを通し、重厚で威厳のある、それでいてどこか冷めた声色を作る。モニター越しに広場を見下ろすと、住民たちが息を呑んで空を見上げているのが見えた。
「――愚かなる子らよ」
俺の声が街中に響き渡る。都市一帯まで静寂が訪れる。
「汝らの真心、受け取った。だが、石や金で築く神殿など、我が求むる真の平穏には程遠い。我が求める神殿とは、心と街の規約の中にこそあるのだ」
住民たちは神妙な面持ちで聞き入っている。俺はさらに追い打ちをかける。
「真の信徒であれば、今の工事を直ちに中断せよ。そして、その資材を街のインフラ整備――『全住民が快適に眠るための静寂環境の構築』に充てること。それが、我に捧げる最大の祈りとなる」
「……管理者様が、静寂を求めている! 我々の祈りは、静寂そのものなのだ!」
彼らはまたしても勝手に解釈した。だが、今度は俺にとって都合のいい方向だ。
「神殿など不要! 管理者様は、我々に『静かに暮らすこと』を求めておられるのだ!」
熱狂は一瞬にして方向転換した。建設途中だった巨大な黄金像は、その日のうちに住民たちの手で丁寧に解体され、街の通りを舗装する石畳へと姿を変えた。騒音は止み、広場には静寂が戻ってくる。
「マスター、見事でした。住民の方々は今、皆で揃って『無言の祈り』を捧げております」
セシリアの報告を聞きながら、俺はロッキングチェアを揺らした。ようやく、いつもの平和が戻ってきた。街は以前よりも静かになり、むしろ居住環境は改善されたと言える。
「結局、信仰心ってやつは厄介だな。だが、コントロールさえ間違えなければ、これほど効率的な『法規の遵守手段』もないのか」
宗教化という予期せぬトラブルだったが、結果的に街の秩序は、俺の睡眠を邪魔しない程度に極限まで高まった。規約を破れば『神の怒り』に触れるという恐怖が、住民たちを規律正しい生活へと縛り付けている。
「これからは、この信仰の形を維持しつつ、俺の睡眠を邪魔するようなイベントは全部『神の試練』の枠組みで潰していくぞ。いいな、セシリア」
「はい、マスター。心得ております。……ちなみに、次の『試練』は何にいたしましょう?」
「……二度寝の邪魔をしない程度なら、なんでもいいよ」
俺はモニターを切り替える。そこには、黄金像の代わりに、静かに朝の掃除をする住民たちの姿があった。彼らは相変わらず、俺という存在に拝んでいるが、その姿勢は極めて規律正しい。
八畳一間の広さは、以前よりもゆったりとした安らぎを与えてくれている。外の世界は俺という「神」を勝手に作り上げ、そのルールの中で勝手に幸福になっている。俺はただの管理者であり、それ以上でも以下でもない。
「さて、ようやく落ち着いたか。……明日は一日、誰の邪魔も受けずに寝かせてもらうぞ」
俺は天使の羽毛布団を頭まで被る。街からは、風の音と、規則正しい生活を送る住民たちの足音だけがかすかに聞こえてくる。俺の働かないための戦いは、またしても俺の完全勝利で幕を閉じた。
遠隔市長として、八畳一間の玉座から眺める世界は、今日も安定と静寂に包まれている。これほど素晴らしい紅茶の香りと、静かな夜があれば、信仰の行方なんてものは、どうでもいいことかもしれない。俺は深い眠りの海へと、ゆっくりと沈んでいった。
ご拝読ありがとうございます。
安眠に落ち着いてしまいました。ここから少しずつ段階を上げていかなくては……。過去につなげるためにも!
さらなる成長と発展を遂げるのか?次回をお楽しみに!!




