第27話 偶像崇拝の弊害
「マスター、大変です! 住民の方々が広場の石碑の横に、マスターを模した巨大な黄金像を建てようとしています!」
スピーカーから聞こえる聖女セシリアの叫び声に、俺は思わず持っていたアッサム紅茶を噴き出しそうになった。
八畳に広がったばかりの自室で、俺はモニター画面を拡大する。そこには、街の男たちが嬉々として巨大な石像の基礎工事を進め、女性たちが色とりどりの花輪を編んでいる姿が映っていた。
「……何を考えているんだ、あいつらは。俺の静かな睡眠環境を、なんでわざわざ騒々しい祭典に変えようとするんだよ!俺に模した像って、俺は一度も姿を見せてないのにか!?」
俺はスライムクッションに沈み込みながら、不機嫌に溜息をつく。この一年で街は巨大化し、住民たちは俺を『遠隔市長』という名の、姿を見せない神として崇めるようになった。
それは経済を回す上では好都合だったが、さすがに(住民たちの妄想により激しく美化された)本人を模した像となると話が別だ。
「セシリア、あれは規約違反だ。第1条にも第2条にも該当しない、無駄な労働と騒音の温床だぞ。即刻中止させろ」
「マスター、そう申し上げたのですが……住民の皆様は『これは管理組合への献身であり、神聖なる儀式である』と聞く耳を持ってくださらないのです。それどころか、神殿建設の資金まで有志で募り始めてしまって……」
セシリアの声は困惑しきっている。彼女自身、俺を敬ってはいるが、ここまで信仰が暴走するとは予想外だったのだろう。画面の向こうでは、老人から子供までが神妙な面持ちで像の完成を祈っている。
「はあ……。とにかく、俺はそんな像に興味はない。規約に『偶像崇拝および無許可の建築の禁止』を追加しておく。撤去させろ」
俺は操作パネルを操作し、街中の掲示板を真っ赤な警告文字で埋め尽くした。だが、それは予想を遥かに超える火種となった。
「マスター! 規約の追加、逆に逆効果でした!」
数時間後のセシリアの悲鳴に近い報告に、俺はモニターを二度見した。
「どういうことだ?」
「皆様、『管理者様が我々の信仰を試していらっしゃる!』と解釈されたのです! この警告は、我々に献身さを求めている、もっと大きな神殿を建てて真心を見せろという試練なのだと……!」
画面の中では、警告文字を見た住民たちが「管理者様のお導きだ!」と涙を流し、さらに神殿建設のピッチを上げている。石材を運ぶ人々の合唱が聞こえ、街全体が異様な熱気に包まれていた。
「……あいつら、俺の意図を完全に履き違えてるな」
俺は頭を抱える。規約を増やせば増やすほど、それが「神聖なる戒律」として彼らの信仰を強化してしまう。今の彼らにとって、俺の言葉は物理的な制裁以上に、信仰の対象として輝きすぎているのだ。
「……セシリア、落ち着け。あいつらを直接止めるのは無理か?」
「申し訳ありません、マスター。今の広場は熱狂の坩堝と化しており、組合長である私の声さえ届かないのです……」
神殿建築の音が鳴り響き、街のいたるところで『市長万歳』の旗が振られている。このままでは、俺の四畳半の真上が、一日中うるさい祭典の騒音に晒されることになる。睡眠不足は、俺にとっての死活問題だ。
「……わかった。直接介入する。住民たちを鎮めるんじゃなく、彼らが『信仰を全うした』と納得させる演出を仕込むぞ」
俺は八畳になったばかりの広々とした部屋で、操作パネルの「環境制御」の項目を開いた。
ご拝読ありがとうございます。
彼にとっての脅威とは?考えた結果が安眠安寧の妨害……窮地としては弱いですかねぇ……。まずは序章ということにしてください。
さらなる成長と発展を遂げるのか?次回をお楽しみに!!




