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Fランクダンジョンの平和な日常〜はじまりのワンルーム〜  作者: 弌黑流人
第一章 はじまりのワンルーム

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第23話 安らぎ

セシリアが不在の間、俺の生活に変化はない。相変わらずのスライムクッション、全自動調理器、そして四畳半の特等席だ。


モニターに映る世界は、日に日に調和を取り戻していった。遠方で起きる紛争も、セシリアが規約に反しますと一言呟くだけで、当事者たちが恐れをなして収束する。俺が四畳半から指先一つで介入しなくても、世界が勝手に俺のルールを守るようになっているのだ。


「結局、あいつらが一番優秀なシステムなんだな」


俺はベッドに深く沈み込み、柔らかい羽毛布団に顔を埋めた。セシリアは今、さらに遠い国へと向かっている。彼女が帰ってきたら、きっとまた新しい国からのお土産と、膨大な報告書を持ってくるだろう。それはそれで少しだけ楽しみでもあるし、同時にやはり面倒でもある。


モニターの中では、セシリアが新たな街の広場で規約を朗読している。彼女が読み上げる一言一句に、民衆は目を輝かせ、心からの感銘を受けていた。彼女が去った後には、必ずと言っていいほど、街に清潔な通りと、喧嘩のない平穏な空気が残る。俺の作った規約という名の箱庭が、大陸全土に広がっているようなものだ。


ある時、セシリアが通信でこう漏らしたことがある。


「マスター、あの神殿の長たちが、規約の真意を問うてまいりました。彼らは、規約の中に秘められた高度な魔力演算の痕跡を見抜こうと必死なのです。私は、それはマスターの愛だとだけ伝えておきました」


その愛という言葉の響きに、俺は思わずコーヒーを吹き出しそうになった。愛というか、ただ俺が面倒を嫌った結果の産物なんだが、そうとも言えない。彼女にとってのこの使命は、もう誰にも止められないライフワークになっているのだ。


「さて、明日は女神がまた騒ぎに来るかもしれないな。あいつ、天界でもこの状況をどう説明すればいいか困ってるみたいだし」


俺は通信のボリュームを絞り、モニターの明るさを少し落とした。画面の向こうで、数百万の人間が規約を守り、穏やかな夜を過ごしている。俺は、その平和の代償として得たこの静寂を、何よりも大切にしたい。


「おやすみ、セシリア。明日の演説もほどほどにな」


モニターの中の街の灯りが、俺の部屋の明かりと重なる。俺は四畳半の市長として、誰にも邪魔されない深い眠りへと落ちていった。世界が勝手に回っていくなら、俺はただ、この場所で紅茶を飲み、寝ていればいいのだ。そうして、明日もまた、俺の管理下で平穏な一日が始まる。それは俺が望んだ、極めて個人的で、究極の理想郷の形だった。


誰かが叫んだり、争ったりする音は、このモニターの向こう側には存在しない。あるのはただ、規約が刻む規則正しい生活のリズムだけ。俺は寝返りを打ち、柔らかなクッションの感触を確かめながら、明日もまた平和であれとだけ願った。


ご拝読ありがとうございます。


珍しく穏やかな日常の回となりました。惰眠を貪る素敵ライフがうらやましい。


さらなる成長と発展を遂げるのか、次回をお楽しみに!!


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