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Fランクダンジョンの平和な日常〜はじまりのワンルーム〜  作者: 弌黑流人
第一章 はじまりのワンルーム

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第22話 外の世界へ

マスター、また遠方の小国から使者が来ました。我が国の規約システムを導入したいと、懇願してやまないのです。


スピーカー越しに報告してくるセシリアの声は、どこか弾んでいる。我が遠隔市長都市が世界一安全な場所として認知されてからというもの、周辺国からの視察は絶えず、ついには規約の出張導入を求める声まで届くようになった。


俺は全自動調理器で淹れたてのコーヒーを片手に、四畳半のモニターを眺める。画面の中では、華美な装束を着た使者が、管理組合の門前で必死に頭を下げていた。


「セシリア、お前がやりたいなら好きにしろ。ただし、トラブルが起きたら即座に連絡だぞ。俺は面倒なのは御免だからな」


「ありがとうございます、マスター! 必ずや、規約の慈悲を世界中に広めてみせます!」


セシリアが嬉しそうに駆け出していくのをモニター越しに見ながら、俺はふと、彼女の背中の動きが以前よりも軽やかであることに気づく。


ここに来たばかりの頃、彼女はダンジョンコアの近くで、何かに怯え、ただ聖女としての義務感だけで生きていた。だが今では、数万の住民を束ねる組合長として、そして自らの意志で世界を救おうとする一人の人間として、これ以上ないほど活き活きとしている。


「充実しててなによりだ。元はと言えば、俺が寝る場所を確保するための副産物だったんだがな」


俺はスライムクッションに身を委ね、小さく独りごちた。俺の働かないための努力が、どこか遠くで誰かの役に立っている。その事実に多少の照れくささはあっても、嫌な気分はしなかった。


セシリアが最初に向かったのは、隣接する腐敗した領地だった。そこはギルドの横暴がまかり通り、領民たちが希望を失っていた場所だ。


広場に集められた人々の前で、セシリアは凛とした佇まいで立った。彼女の演説は、力強く、そして温かかった。


「皆さま、聞いてください! 暴力に怯える日々は、今日で終わりです。ここに、絶対の平和をもたらす法、管理組合規約を授けます!」


その声には、管理組合長としての自信と、マスターである俺のシステムに対する揺るぎない信頼が満ちていた。


「規約第1条、暴力の禁止。第2条、助け合いの精神。第3条、清掃と公衆衛生。これらを守る者は、何人たりとも侵されることはありません。何故なら、我々には姿なき管理者様という、絶対の守護神がついているのですから!」


彼女が右手を掲げると、俺が遠隔操作で街の環境制御を起動し、広場に爽やかな風と、花びらを舞わせた。

演出としては完璧だ。領民たちは彼女を、女神に遣わされた高潔な使徒だと信じて疑わなかった。


彼女の言葉のインパクトと、演出の相乗効果は凄まじかった。領民たちが熱狂し、跪く光景をモニターで見ながら、俺は苦笑する。


「おいおい、俺は神様じゃないんだがな。まあ、あいつがそれで納得しているなら、黙っておくか」


セシリアの巡回は、瞬く間に近隣諸国を席巻していった。どこに行っても、彼女が規約を唱えると、その国の法律よりも早く規約が浸透していく。


俺は四畳半のモニターを並べ、世界の地図が少しずつ俺のルールに塗り替えられていく様を観察していた。画面の中のセシリアは、各地の領主たちに丁重に迎えられ、神聖な巡礼者のように崇められている。


セシリアは帰還するたびに、各地で拾った逸話や、規約がもたらした奇跡の報告書を山のように積み上げる。彼女の中では、俺のシステムは単なる街の運営規則を超え、世界を救済するための絶対的な教義にまで昇華されていた。


俺は、その熱量に圧倒されつつも、心地よい静寂が守られていることに安堵する。世界が整えば整うほど、俺の四畳半には何物にも邪魔されない平穏が約束されるのだ。


ご拝読ありがとうございます。


聖女は働きすぎて疲れ切ってここに来たのに……、やる気に燃えて働きまくるなぁ……。充実していることは良いことだ。


さらなる成長と発展を遂げるのか、次回をお楽しみに!!


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