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Fランクダンジョンの平和な日常〜はじまりのワンルーム〜  作者: 弌黑流人
第一章 はじまりのワンルーム

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第18話 姿なき絶対守護神

「規約第1条。敷地内におけるあらゆる暴力行為の禁止。……および、これを乱す者への物理的制裁」


俺が画面をスワイプすると同時に、外の街の空が、一瞬にして不気味な紫色の雲に覆われた。


「あ、あんだぁ? 急に暗くなって……」


大剣を構えた盗賊の頭領が、怪訝そうに空を見上げた次の瞬間。


ドガァァァン!!!


容赦のない、青白い落雷が頭領の目の前に突き刺さった。

爆風と電撃の余波だけで、周囲の盗賊たちが一斉に消し飛ぶ。

運営のギフトをフル稼働させた、ピンポイントの環境制御だ。


「ひっ、ひいいいっ!? 雷ぃっ!?」


「まだだ。規約を破った対価は、そんなに安くない」


俺がパネルを連続で叩くと、残った盗賊たちの足元の地面が、突如として強烈な輝きを放ち始めた。

局所的重力制御――通常の「5倍」。


ズドォォォン!!!


「が、はっ!? 身体が……地面に食い込む……っ!?」


「息が、できな……!」


重戦車に押し潰されたかのように、盗賊たちは一人残らず地面に這いつくばり、指一本動かすこともできなくなった。


武器は大剣の自重でへし折れ、鎧は己の重さでミシミシと悲鳴を上げている。


広場に集まっていた住民たちは、その圧倒的な光景を、息を呑んで見つめていた。


敵の姿はどこにもない。ただ、上空からの落雷と、見えない重力の圧殺。

それは人間が抗えるような力ではなく、文字通りの「天罰」だった。


「……規約第24条に基づき、処理完了。セシリア、あとは任せた。そいつらを街の境界線の外へ放り出しておけ」


「はい、マスター! 迅速に対処いたします!」


セシリアの合図とともに、管理組合の腕自慢の住人たちが、動けなくなった盗賊たちを芋虫のように引きずり、街の外へと文字通り放り出していった。


静寂を取り戻した広場で、一人の難民の老人が、ゆっくりと膝をついた。

それに続くように、商人も、元冒険者たちも、全員が広場の石碑に向かって、深く、深く、祈るように跪いていく。


「おお……管理者様……。姿を見せずとも、我らを守ってくださる、絶対の守護神様だ……!」


画面の向こうで、数千人の人間が俺のいる四畳半(正確にはその真上にあるダンジョンコア)に向かって拝んでいる。


ベッドの上でその光景を見ながら、俺は盛大にため息をついた。


「いや、だから拝むなよ。俺はただ、寝転がってボタンを押しただけだっての」


それからの街の発展スピードは、もはや狂気すら孕んでいた。


「姿なき絶対守護神が統べる、天罰の街」


その圧倒的な防衛力が証明されたことで、外の街は「どんな城塞都市よりも安全な場所」として、周辺の国々から商人や貴族までもが視察に訪れる大都市へと変貌しつつあった。


人々は俺のことを親しみを込めて、あるいは畏怖を込めて、こう呼んだ。

――「遠隔市長」。


「マスター、本日の定例報告です。新しく開設した中央市場の税収ログ、および規約の改定案を掲示板に記載しておきました。ご確認ください」


スピーカーから流れるセシリアの声は、すっかり一国の宰相のような落ち着きを帯びている。

俺は天使の羽毛布団に包まったまま、片目でその膨大な書類データをスクロールした。


「……市場の配置、動線が悪いな。規約第12条の消防規定に引っかかる。ギフトの魔力で、夜の間に市場の区画を丸ごと5メートル西にずらしておく。あと、この税収から『最高級の紅茶の葉』を物々交換の予算として計上しておけ」


「かしこまりました。明朝、住民たちには『管理者様の御意志により、街の構造が再編成された』と通知しておきます」


俺は一歩も部屋から出ていない。

それどころか、パジャマ姿でスライムクッションを抱きしめているだけだ。


それでも俺の指先一つで、外の巨大な街のインフラが書き換えられ、法律が変わり、経済が動いていく。

四畳半のモニターが、そのまま「市長の執務机」になってしまっていた。


『ピコン』


そこへ、しばらく静かだった女神からのプライベートメッセージが、恐る恐る届いた。


『あの……管理者のあなた? ちょっと天界の広報課から連絡があったんですけど……。あなたのダンジョンの外にある街、今や周辺地域で最大の経済規模を誇る「市長都市」として、天界の公式データベースに登録されちゃったんですけど……』


画面の向こうで、女神が引きつった笑顔で冷や汗を流している。


『私、あなたと「現状維持のホワイト運営」で契約したはずですよね? なんで部屋に引きこもったまま、世界を揺るがすような巨大都市まっしぐらの市長に就任してるんですかー!?』


「うるさいな。俺はただ、自分の睡眠環境を守るためにルールを作って、それを徹底させただけだ。結果的に街が大きくなったのは、あいつらが勝手にやったことだろ」


『それを世間では「天才的な統治」って言うんですよ!』


女神のツッコミを無視して、俺は通信のボリュームを絞った。


ご拝読ありがとうございます。


規約の条項が増えてごっちゃになりそう(汗)

不埒者の撃退なんてお手の物。安眠妨害は厳罰に処す!


さらなる成長と発展を遂げるのか、次回をお楽しみに!!


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