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Fランクダンジョンの平和な日常〜はじまりのワンルーム〜  作者: 弌黑流人
第一章 はじまりのワンルーム

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第17話 安全神話の副産物

Cランク冒険者の一団を「規約第24条」に基づき物理処理してからというもの、四畳半のモニターに映る景色の変貌ぶりは、俺の予想の斜め上を突破していた。


「……おいおい。何だ、この行列は」


全自動調理器が淹れたコーヒーを片手に、俺は呆然と画面を眺める。

定点カメラが捉えているのは、ダンジョンの入り口を埋め尽くさんばかりの、みすぼらしい身なりの人々だった。


着の身着のまま逃げてきたような難民、怪しい大きな荷物を抱えた訳ありの商人、そして前線を退いたと思しき松葉杖の元冒険者たち。


「Cランクを瞬殺した、世界一安全なFランクダンジョン」


その噂は、外の世界で過酷な生存競争に晒されていた者たちにとって、文字通りの「約束の地」に聞こえたらしい。


彼らはダンジョンに入るわけではなく、その外壁にへばりつくようにして、簡易的なテントや泥の家を建て始めていた。

気づけば、入り口周辺の「外の街」は、数倍の規模へと膨れ上がっている。


「マスター、聞こえますか! 外の窓口が大変なことになっています!」


スピーカーから、管理組合長であるセシリアの切羽詰まった声が響いた。

画面を見ると、彼女の部屋の前には、入居や保護を求める人々が長蛇の列を作っている。


「彼ら、ここに住みたいって聞かないんです。教会やギルドの横暴に疲れたって……。どうしましょう、追い返しますか?」


俺はスライムクッションに深く沈み込み、操作パネルを叩いた。

追い返すのは簡単だ。だが、行き場を失った連中がダンジョンの周りで暴徒化すれば、俺の安眠が脅かされる。


「……いや、受け入れろ。ただし、条件がある」


俺は加工した声をスピーカーへ送る。


「ダンジョン内への立ち入りは制限するが、外壁周辺での居住は許可する。その代わり、居住者は全員『管理組合規約』を厳守させろ。一、敷地内での暴力行為の禁止。二、ゴミの分別と毎朝の清掃。三、組合長であるお前の指示に従うこと。これを破る者は、即座にこの領域から排除する」


「わかりました! マスターの慈悲深き御言葉、必ずや彼らに伝えます!」


セシリアは目を輝かせ、広場に集まった人々へ向かって、俺の提示したルールを厳格に読み上げ始めた。

驚いたことに、人々は反発するどころか、まるで神聖な法典を授かるかのように、神妙な面持ちでその「規約」に耳を傾け、深く頭を下げていた。


俺はただ、揉め事を事前に回避したかっただけなのだが、画面の向こうでは、俺の作ったルールが新しい世界の法律として、急速に根を張り始めていた。


「外の街」の人口が千人を超えた頃、広場の中央に巨大な石碑が建てられた。


人々がどこからか運んできた巨大な岩に、彼ら自身の手で、俺の作った「管理組合規約」が一行ずつ、丁寧に刻まれていく。

今やその石碑は、街の信仰の対象のようになっていた。


「おい、ゴミはちゃんと分別しろよ。規約第3条に反したら、管理者様の罰が下るぞ」


「当たり前だろ! 先週、広場でスリを働こうとした奴が、足元の重力が3倍になって動けなくなったのを見たろ? あの御方は全てを見ているんだ」


モニター越しに住民たちの会話を聞きながら、俺は苦笑交じりにコーヒーを啜る。

全てを見ているというか、ただ四畳半で寝転がりながら、画面のアラートをチェックしているだけなのだが、彼らの中での俺のイメージは、神格化の一途をたどっているようだ。


「マスター、本日も規約に基づき、街の運営は極めて順調です」


セシリアが誇らしげに報告してくる。

彼女は今や、数千人の住民を束ねる「管理組合長」であり、実質的な街の代表者として、絶大な信頼を集めていた。


自堕落にスライムを枕にして寝ていたあの聖女が、今では凛とした表情で住民の相談に乗っているのだから、環境の変化とは恐ろしい。


だが、街が大きくなれば、当然、その富と安全を妬む「外の悪意」も引き寄せられることになる。


ピコン、と画面の隅で赤い警告灯が点滅した。

ダンジョンの敷地境界線(外の街の入り口)に、武装した一団が近づいている。


それは、かつてこの地域一帯を縄張りにしていた、悪質な盗賊ギルドの残党たちだった。


「ひゃはは! 噂の安全な街ってのはここかぁ? 塀も門もありゃしねえ、ただの難民キャンプじゃねえか!」


彼らは抜身の剣を掲げ、整備されたばかりの石畳の道路を踏み荒らしながら突進してきた。

怯える住民たちが、悲鳴を上げて広場の石碑の周りへと逃げ惑う。


「セシリア組合長! 賊です! どうすれば……!」


住民の一人が叫ぶ。


セシリアは、腰のメイスに手をかけながらも、広場の中央にある定点カメラ(俺の視線)を見上げた。


「慌てる必要はありません。この街には、絶対の法があります。……マスター、不法侵入者たちの位置、捕捉していますか?」


「……ああ。バッチリ画面のセンターに映ってるよ」


俺はスライムクッションから顔を上げ、操作パネルへと指を滑らせた。

俺の静かなる四畳半ライフを脅かすノイズは、容赦なく排除させてもらう。


ご拝読ありがとうございます。


難民の受け入れに伴う新たな規律を設立。聖女なだけはあって有能なのは間違いがなかった。さて、お呼びじゃない連中にどのような仕置きが待っているのか……。


さらなる成長と発展を遂げるのか、次回をお楽しみに!!


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