第14話 天使の羽毛布団
「いいか、よく聞け」
俺は全自動調理器が淹れたコーヒーに、トビーから買い取った「星屑のハーブ」を数滴垂らし、その香りを楽しみながら言葉を続けた。
「あんたがこれ以上、お見合いだの罠の増設だのと言って、俺の部屋の中に物理的・精神的な干渉をしないと約束するなら――この完璧な『生還率100%の運営実績ログ』を、毎月あんたの名義で天界に納品してやる」
『えっ……私名義で、ですか?』
女神の目が、現金にもピクリと動いた。
「ああ。あんたは何もせず、天界の自室で寝転がって、俺から送られてくる数字を上層部に横流しするだけでいい。そうすれば『引きこもり管理者を完璧にコントロールし、Fランクダンジョンを世界一安全な聖域へと導いた最高の指導神』として、異例の出世を遂げるだろうよ」
『最高の……指導神……。悪くない響きですね……。ゴクリ』
完全に食いついた。この女神、ポンコツだが私欲には極めて忠実だ。
しかし、ここで引き下がるほど彼女もプライドが無くはなかったらしい。ふんす、と鼻を鳴らしてホログラムの胸を張った。
『ですが! ただでその条件を呑むわけにはいきません! 私だって管理補佐としての意地があります! あなたがそれほどまでに快適な引きこもり生活を望むなら、天界の技術というものを見せてあげましょう!』
そう言うと、女神は空間から巨大な「何か」を取り出し、俺のベッドの上にドサリと落とした。
それは、見るからにこの世の物質とは思えないほど、神々しい純白の光を放つ大きな塊だった。
「……なんだ、これは」
『ふふん、驚きなさい! 天界の宝物庫から特別に引き出してきた「天界特製・最高級天使の羽毛布団」です! 人間たちが血眼になって探しているエテルナ産の羽毛なんて、これに比べればただの雑草の切れ端も同然! 一度これに包まれれば、神々ですら千年間の深い眠りにつくと言われる、究極の寝具ですよ!』
俺は恐る恐る、その布団の表面に触れてみた。
「っ……!」
脳内に直接、極上の柔らかさが突き抜けた。
シルクを遥かに凌駕する滑らかな肌触り。指が沈み込んだ瞬間に感じる、まるで雲そのものに触れているかのような圧倒的なクッション性。
間違いない。これこそが、俺が追い求めていた終着点、究極のQOLだ。
『どうですか! これをあなたに差し上げます! その代わり、来月からのノルマは生還率だけでなく、ダンジョンの「新規エリア拡張」と「魔力総量の倍増」もセットに――』
「話にならん。却下だ」
俺は布団を抱きしめたまま、冷ややかな声で一蹴した。
『えええーっ!? 布団を受け取っておいて拒否ですか!?』
「新規エリアの拡張なんてしたら、また管理の手間が増えて俺の睡眠時間が減る。本末転倒だ。……だが、その布団の価値は認めてやる。だから条件を再提示する」
俺は操作パネルを叩き、臨時の「契約書」を作成して画面に表示した。
「この布団の対価として、今月の生還率100%のログは即座にあんたに譲渡する。さらに、来月以降も『現状の規模を維持したままの完璧な優良ログ』を毎月提供してやる。あんたは座って評価を受け取れ。ただし、これ以上部屋に干渉するな。新規ノルマの押し付けも一切禁止だ」
『う、うう……。座っているだけで出世できるのは魅力的ですけど、なんだか完全にあなたに主導権を握られているような……』
「主導権なんてどうでもいいだろ。あんたは名誉を。俺は睡眠を。お互いに一番欲しいものを手に入れる、完璧なビジネスパートナー(利害一致)じゃないか」
女神はしばらく、画面に表示された契約書と、俺の手元でフカフカと自己主張を続ける天使の布団を見比べ、ついにがっくりと肩を落とした。
『……分かりました。その契約、結びましょう。ただし、もし一度でも生還率が落ちたら、即座にこの契約は破棄して、毎日お見合いホログラムを100枚送りつけますからね!』
「問題ない。俺のシステムに抜かりはない」
こうして、俺と女神の間に、天界をも欺く「欲深ビジネス契約」が交わされたのだった。
ご拝読ありがとうございます。
欲深い。この一言につきますね。女神の威厳はどこへやら。管理者の彼の思惑は果たしてそれだけなのか……。
さらなる成長と発展を遂げるのか、次回をお楽しみに!!




