第13話 お見合いホログラム襲来
トビーから寄せられる外の街の情報をもとに、次なる物々交換のターゲットを「冷感絹糸のシーツ」に定め、チャット画面で細かな取引条件を詰めていた時のことだ。
突如、四畳半の特等席のモニターが、激しい赤と青の光で明滅を始めた。
『緊急警報:上位存在との回線が復旧しました。同期処理を開始します』
「……チッ、耳障りなアラートだな。せっかくいいところだったのに」
俺が操作パネルに手を伸ばした瞬間、バチバチッと部屋の隅の空間が歪んだ。
現れたのは、等身大の3Dホログラムだ。
天界での緊急会議とやらに出席していたはずの女神が、肩を怒らせ、今にも掴みかかってきそうな勢いでそこに立っていた。
『管理者のあなた! 放置しすぎです! 私がいないのをいいことに、ダンジョンの一部を賃貸物件にして、外に勝手なコミュニティまで作って、挙句の果てには物々交換で私腹を肥やすなんて……! 天界の上層部から「お前のところの管理者は何をやっているんだ」って、もの凄く怒られたんですよ!?』
「うるさいな。声のボリュームを下げろ。ホログラムの出力魔力が部屋のエアコンと干渉して、室温が上がってるんだよ」
『人の話をききなさーい!』
女神はキーキーと叫びながら、懐から大量の半透明なカードを取り出し、四畳半の空間へとバラまいた。
カードが空中で静止すると、それぞれからまばゆい光が放たれ、部屋中に無数の美少女たちの姿が立体映像となって浮かび上がる。
『良いですか! あなたがそこまで頑なに部屋から出ないのは、外の世界に娯楽や「出会い」がないからだと天界は結論づけました! そこでこれです! 天界が誇るエリート神官や、他系統ダンジョンの敏腕管理者の娘たちを集めた「お見合い写真(ホログラム版)」です! さあ、この中から好みのタイプを選んで、今すぐ部屋のドアを開けて外へデートに出かけるのです!』
俺の聖域である四畳半が、一瞬にして見ず知らずの女たちのホログラムで埋め尽くされた。
ベッドの足元には微笑むエルフの神官、全自動調理器の横にはお淑やかな人間の令嬢、そして俺の枕元には、なぜか巨大な斧を携えたドワーフの戦姫がドヤ顔で佇んでいる。
「……おい」
俺の口から、低く冷たい声が漏れた。
せっかく最高級のコーヒー豆を手に入れ、次はシーツを変えて睡眠の質を極限まで高めようとしていたのだ。それを、この身勝手な上司は、お見合いなどという極めてプライベートかつ面倒なノイズで邪魔しにきた。
俺はのろのろと起き上がり、ホログラムをすり抜けて操作パネルの前に座る。
そして、鬼気迫る攻撃的なタイピングで天界のシステムログを開き、いくつかの数値を画面に表示させた。
「あんたさ、何か勘違いしてないか?」
『な、何ですか、その目は……! 私はあなたの将来を思って……』
「あんたの真の目的は、俺を結婚させることでも、部屋から出すことでもない。天界の上層部に対して、『私はまともに管理者を指導し、成果を上げています』という実績(数字)を示すことだろ」
俺が画面を指差すと、そこには今月の「初級冒険者生還率:100%」「ダンジョン内犯罪発生率:0%」「周辺経済の活性化指数:前月比400%」という、圧倒的な優良データが並んでいた。
「これを見ろ。あんたが天界で油を売っている間、俺はこのダンジョンを完全自動化し、上層部が泣いて喜ぶようなホワイト運営を達成した。このログが天界に提出されれば、あんたの評価は爆上がりするはずだ」
女神は、提示された数字を見て完全に硬直した。
パチパチと目を瞬かせ、画面と俺の顔を何度も往復させる。
「どうだ? あんたにとっちゃ、俺が部屋の中で寝ていようが、外でデートしていようが、この数字さえ手に入れば万々歳なわけだ」
『う、うぐっ……それは、そう、ですけど……。でも、それならそれで、私の立場はどうなるんですか……?』
「だから、取引をしようって言ってるんだよ」
俺は不敵な笑みを浮かべ、部屋中に浮かぶお見合いホログラムを、一括削除ボタンで一瞬にして消し去った。
ご拝読ありがとうございます。
一括削除を押したときの彼の心は清々しいほど快晴に向かったことでしょう。そして、取引の内容とは……?
さらなる成長と発展を遂げるのか、次回をお楽しみに!!




