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Fランクダンジョンの平和な日常〜はじまりのワンルーム〜  作者: 弌黑流人
第一章 はじまりのワンルーム

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第12話 御神託

ルバム高地の極上コーヒー豆がもたらした至福の時間は、俺の引きこもり魂に、さらなる火をつける結果となった。


「……ふむ。やはり、良いものはいいな」


全自動調理器が完璧な温度で抽出した一杯を口に含み、俺は悦に入っていた。


だが、コーヒーが満点になればなるほど、今度は別の不満が首をもたげてくる。

人間の欲求とはつくづく罪深い。


俺はスライムクッションの上で寝返りを打ち、自分の体を包む、ややゴワついたシーツに視線を落とした。


「次は……睡眠の質(クッション性)の向上だな」


どれだけ運営のギフトで部屋の魔力を最適化しても、システムが初期設定で用意した寝具の「布地の柔らかさ」には限界がある。


俺が本当に求めているのは、一度包まれたら最後、あらゆる社会的責任を放棄して二度と出られなくなると噂の「エテルナ産・最高級白鳥の羽毛布団」だ。


俺はさっそく操作パネルを叩き、ダンジョン第1階層の物資交換所、および各冒険者の魔導端末への通知を更新した。


『限定ミッション:以下の物品を物資交換所に持ち込んだ者には、ダンジョン特製「最高級メロンパン(魔力循環・極)」および「超高純度ハイポーション(即時完全回復)」を支給する。


【指定物品】エテルナ産・白鳥の羽毛、またはそれを使用した最高級寝具』


よし、と。俺は満足してモニターを閉じ、再びスライムに顔を埋めた。

外の世界の人間が、この法外な報酬にどう反応するか、少しだけ楽しみにしながら。


それから数日後。

俺がいつものように四畳半のモニターを開くと、そこには奇妙な光景が広がっていた。


ダンジョンの入り口の向こう側。いつの間にか形成されつつある「外の街」の広場に、巨大な黒板が設置されていたのだ。


そこには、俺が気まぐれに更新したはずの「指定物品リスト」が、金色の染料で恐々しく書き写されている。

人々はその黒板を真剣な面持ちで囲み、熱心にノートにメモを取っていた。


「おい、聞いたか! 管理者様の『御神託』が更新されたぞ!」


「今度は『エテルナ産の羽毛』だ! 嘘だろ、あの幻の怪鳥の毛皮かよ!?」


「急げ! 大商会の馬車がエテルナ領へ向かう前に、市場にある在庫を買い占めるんだ!」


画面の向こうで、商人や冒険者たちが血眼になって走り回っている。


どうやら、俺の出した交換条件は、外の世界において「国家を揺るがしかねない超一級の最高級品」と同等の価値を持つ、とんでもないお宝だったらしい。


ダンジョン特製のパンやポーションは、外の教会や貴族たちが大金を積んででも欲しがる代物らしく、それを手に入れるための「鍵」として、俺の欲しいものが神聖視されているのだ。


「……なんか、思ってたより大ごとになってないか?」


俺はコーヒーを吹き出しそうになりながら、チャットウィンドウの受信ボックスを開いた。

そこには、前回の取引でコーヒー豆を持ってきてくれた、あの新米冒険者からのメッセージが届いていた。


『管理者さん! 掲示板の御神託、見ました! 街のギルドは大騒ぎです! でも、エテルナ産の羽毛なんて、僕みたいなFランクじゃとても手が出せなくて……。あの、もし良ければ、羽毛じゃなくても、僕の故郷で採れる「星屑のハーブ」じゃダメでしょうか? すごく安眠効果があるんです!』


画面の向こうで、彼は必死に端末をタップしているようだった。

俺は少しだけ考え、指を動かす。


『星屑のハーブか。成分を鑑定する。端末のスキャナーに提示せよ』


『あ、はい! これです!』


彼が懐から取り出したのは、青く小さな乾燥ハーブだった。


運営のギフトで鑑定してみると、確かに精神安定と深い睡眠を誘う特級の薬効成分が含まれている。羽毛布団には届かないが、枕元に置くアロマとしては一級品だ。


『品質確認。実用に耐えうると判断。今回の「羽毛布団」の報酬とは別枠で、特製シナモンロール2個と交換する。また、今後の参考のため、外の街での物価と、今人々が何を求めているのかの情報ログの提出を要求する』


『うわぁ! ありがとうございます! 情報ならいくらでも集めます! 今、街では管理者のパンを巡って、二大商会が裏で大喧嘩してますよ!』


彼――名前を「トビー」というらしい――とのチャットのやり取りは、存外に有意義だった。


彼が送ってくる外の街の情報は、人間が何を喜び、何を恐れ、どんな流行で動いているのかを、引きこもりの俺に克明に教えてくれる。


この世界に住む人間の心理というやつを理解すれば、今後のダンジョン運営をさらに効率化し、俺の睡眠時間をより強固に守るためのデータになるはずだ。


「……なるほど。外の商人どもは、俺が次に何を欲しがるかで株価を変動させているわけか」


モニターを見つめながら、俺は不敵な笑みを浮かべた。

俺はただ、四畳半のベッドから一歩も動かずに、画面を叩いているだけだ。

しかしその指先一つで、外の世界の経済が、まるで生き物のように踊らされている。


「よし、次はカカオ豆と、それから『冷感絹糸のシーツ』でも要求してみるか」


俺のQOL向上計画は、外の人間たちを巻き込んだ、欲深いやりとり……、もとい、街の発展に一役買いつつあった。


ご拝読ありがとうございます。


物々交換の要求が御神託扱いされ、街の経済を動かしてゆくとは。これもすべて欲深く追い求める安寧のため。調子に乗りすぎなきゃいいけれど……。


さらなる成長と発展を遂げるのか、次回をお楽しみに!!



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