第11話 規約第24条
女神の通信が途絶えてから数日後。
ダンジョンの入り口を映すモニターに、明らかに周囲のFランク冒険者とは浮いた存在の三人組が映し出された。
全身を禍々しい黒銀の鎧で包み、身の丈ほどもある大剣を背負った男たち。
彼らはDランク、いやCランク以上の「中堅冒険者」だ。
「おいおい、噂通り本当にヌルいダンジョンだな」
「ゴブリンが冒険者を介護してやがるぞ。傑作だ、こんな甘ったれた場所、俺たちが力尽くでコアを奪って、私有地にでもしちまえば、大儲けできるんじゃあないか?」
彼らは入り口の自動券売機を大剣の柄で殴り壊し、案内役の無人受付スライムを容赦なく踏みつぶした。
さらには、通路で真面目に清掃業務を行っていた入居者の新米冒険者たちを突き飛ばし、奥へと突き進んでくる。
「な、何をするんですか! ここは管理組合の規約で……!」
「うるせえよ、Fランクの雑魚が! すっこんでろ!」
画面の向こうで、先ほど俺にコーヒー豆を届けてくれたあの新米冒険者が、大剣の男に蹴り飛ばされて壁に叩きつけられた。
その光景を見た瞬間、俺の頭の中で、パチンと何かが弾ける音がした。
「……おい」
俺の部屋の温度が、スウッと下がっていく。
いや、俺自身の怒りが、部屋の魔力循環を狂わせているのだ。
俺はただ、四畳半の聖域で静かに眠りたいだけだ。
そのために、システムを自動化し、住人たちとささやかなルールを作り、この静かなる平和を築き上げてきた。
それを、外からやってきた無粋な余所者が、土足で踏みにじろうとしている。
「俺の管理する平穏を、勝手に汚すな」
俺はのろのろと起き上がり、操作パネルをこれまでにない速度で叩いた。
運営のギフトをフル稼働させる。ただし、今回は防衛トラップの設置ではない。
このダンジョンを信じて働いてくれている、住人たちの支援への転用だ。
「セシリア、聞こえるか。管理組合長としての初仕事だ。武器をとれ」
スピーカーから流れる俺の声に、隣の部屋で事態を察知していたセシリアが、鋭い表情で外へと飛び出す。
「はい、マスター! この聖域を汚す不届き者、神の御名において……いいえ、管理組合の規約において排除します!」
俺は運営のギフトにより、セシリアと新米冒険者たちのステータスを一時的に10倍に跳ね上げ、さらに彼らの武器にバフを付与した。
それだけではない。大剣の男たちの足元の重力を、ピンポイントで通常の3倍へと変更する。
「が、は!? なんだこの重さは……!」
「身体が、動か……」
「規約第24条に基づき、Fランクダンジョンに害をもたらす、マスターの許可なき暴力行為を行う不法侵入者には、物理的に処理します」
俺がスワイプ一つで放った落雷と、バフによって一気の戦力と化したセシリアたちの猛攻により、Cランク冒険者の一団は一歩も進めないまま、ボロ雑巾のようにダンジョンの外へと叩き出されていった。
数日後。
天界での用事を終えた女神が、慌てた様子で通信を繋いできた。
『管理者のあなた! 大変です、留守の間に高ランクの冒険者がそっちに向かったという情報が――って、あれ?』
画面に映るダンジョンは、何事もなかったかのように平和だった。
それどころか、今回の騒動で安全性が証明され、入り口の周りには住居や商売の拠点を求める人々が押し寄せ、まるで小さな街のようなコミュニティができ始めていた。
唖然とする女神に向けて、俺は全自動調理器で淹れた最高級のコーヒーを一口啜り、静かに言い放った。
「遅い。あんたがいなくても、俺がここを完璧に管理してやるよ。だから、これからは少し静かにしてろ」
『え、えええ……!?』
女神の驚愕の声を無視して、俺は通信を切った。
四畳半のドアは、まだ固く閉ざされたままだ。
だが、モニターに映る外の街を見つめる俺の目は、ほんの少しだけ、外の世界へと開かれ始めていた。
ご拝読ありがとうございます。
見事なバフとデバフにより、不届き者の撃退に成功。こうして平穏は守られた。女神の立場はいかに。
さらなる成長と発展を遂げるのか、次回をお楽しみに!!




