第九十七章 同行
サイレンの低音が壁を震わせる。
部屋の蛍光灯が一度、チカリと瞬いて暗転しかけた。
それはまるで、二人の間に横たわる選択を急かす合図のようだった。
仲間は深く息を吐いた。
机に置いた手をぐっと握り締め、目を閉じる。
「……お前の言う通りだ。俺ひとりで逃げても、あの連中は追ってくるだろう。お前が“鍵”なら、結局は巻き込まれる」
少年は黙って彼の言葉を待った。
「……クソッ。仕方ねえ」
仲間は立ち上がり、拳銃のスライドを確かめた。
乾いた金属音が、狭い部屋に響く。
「俺も行く。だが勘違いするな。お前に賛成してるわけじゃない。ただ、このまま見捨てたら俺が生き残っても意味がねえ。……そう思っただけだ」
少年は小さく息を呑み、かすかな安堵を覚えた。
「ありがとう」
「礼なんて言うな。まだ死んでねえんだから」
外から、ドローンのローター音が徐々に近づいてくる。
青白い光が窓をかすめ、壁に流れる。
「出口は?」少年が問う。
「裏の廃配管だ。排水路を通れば、地下鉄の閉鎖区画に抜けられる。そこからなら、まだ追跡はかわせるはずだ」
仲間は短く説明しながら、リュックにケーブルと携帯端末を押し込んだ。
少年は首を縦に振り、端末の痛みに耐えながら立ち上がった。
残滓がまだ脳裏をざらつかせる。視界の端にノイズが走るたび、倒れそうになるのを必死に踏みとどまる。
「……歩けるか?」
「……大丈夫。まだ、動ける」
二人は目を合わせた。
そこにあったのは和解ではなく、妥協の火花だった。
しかしそれで十分だった。
次の瞬間、窓ガラスが外から弾け飛び、光学照準の赤い点が床に踊った。
少年と仲間は無言で頷き合い、裏口へと走り出した。




