第九十八章 地下へ
裏口の鉄扉を閉めた途端、銃声が背後で跳ねた。
弾丸が鉄板を叩き、火花が散る。
仲間は躊躇なく先導し、少年を狭い通路へ押し込んだ。
「こっちだ!」
薄暗い通路の奥には、錆びついた配管の群れと、その下に口を開けた廃配管の点検口があった。
蓋は錆に覆われていたが、すでに誰かが一度こじ開けた形跡がある。
仲間は短いバールを取り出し、溶接痕を蹴り砕いた。
金属が悲鳴を上げ、重い蓋が横倒しに転がる。
「急げ!」
少年は膝をつき、暗闇に足を滑り込ませた。
下から生ぬるい空気が押し寄せ、鼻を突く薬品臭と湿気がまとわりつく。
足を下ろすと、膝下まで濁った水に浸かった。
金属の壁面には古い水垢が縞模様を描き、蛍光塗料の残骸が緑色にぼんやり光っている。
「……ここ、本当に通れるのか?」少年が声を潜める。
「使われなくなった配管だが、地下鉄工事の補助路に繋がってるはずだ。図面じゃ塞がれてるが、現場じゃそう簡単に埋められねえ」
上からドローンのローター音が響き、赤いスキャン光が通路を舐めた。
少年は反射的に身を縮め、水音を立てぬよう必死で息を殺す。
仲間は手をかざし、小声で告げた。
「ここから先は音が響く。ゆっくり進め。走ればすぐに場所がバレる」
二人は濁流の中を、足を取られながら進んだ。
上部の配管からは時折、圧縮空気が漏れ、甲高い音が暗闇を貫く。
そのたびに心臓が跳ね上がり、少年の耳鳴りが暴走しかける。
進むうちに配管は大きく分岐し、工業都市の裏腹のように複雑な迷路を形づくっていた。
壁には「工区07-B」「廃止配管ルート」といった赤いマーキングが掠れて残っている。
「ここだ。これを左に折れ。地下鉄の補助電源室に出る」
仲間が短く指示する。
その直後、後方からかすかな水音が追いかけてきた。
規則的で、確かに二人のものとは違うリズム。
少年は足を止め、振り返った。
暗闇の奥、赤外線ゴーグルの光点がひとつ、またひとつと浮かび上がった。
「……追ってきてる」
仲間は顔をしかめ、銃を引き抜いた。
「想定より早えな。行くぞ――止まったら終わりだ!」
二人は再び水を蹴り、迷路の奥へと駆け出した。




