第九十九章 補助電源室
錆びた配管を左に折れた先、壁面に古びた鋼鉄の扉が現れた。
「ここだ」仲間は息を切らしながら手探りでパネルを探り、懐から細工された金属片を差し込む。
ギギッと音を立て、錆に固まったラッチが外れる。
扉の向こうは狭い階段。二人は濁流を抜け、急いで階段を駆け上がる。
頭上の蛍光灯は半数が死んでおり、残った一本が不安定に点滅を繰り返していた。
階段を上りきると、四角い部屋に出た。
壁一面に並んだ古い配電盤と巨大なブレーカー、床にはケーブルの切れ端や埃にまみれた工具が散乱している。
ここは地下鉄工事用の補助電源室――数十年前に使われたきり、放置されていた。
仲間はすぐさま扉を閉め、内側から鉄製の横木を噛ませる。
「しばらくは持つ。奴らも配管を通ってくるしかねえ」
少年は壁際に倒れ込み、胸を押さえた。
残滓が暴れ出す感覚がこめかみに鈍痛を走らせ、視界の端でちらつく光が止まらない。
「……まだ、揺れてる……」
「無理に抑え込むな。ここは安全圏だ、まず呼吸を整えろ」
仲間は配電盤の一角を調べ、小型のブレーカーを上げた。
低い唸り音とともに非常灯が赤く点き、部屋の輪郭が浮かび上がる。
「最低限の電源は生きてる。通信は死んでるが、追跡信号も届かねえはずだ」
少年は壁にもたれかかり、深く息を吸い込んだ。
埃と油の混じった空気は決して快適ではなかったが、背後に迫る敵の足音を遮る厚い壁が、わずかな安堵を与えてくれる。
仲間は床に腰を下ろし、持ち込んだ小型端末を開いた。
「ここで少し休む。奴らの動きを監視しつつ、次の出口を探す」
少年は目を閉じ、額を押さえた。
残滓はまだ完全に収まらず、頭の奥で何かがざわめいている。
けれど、そのざわめきを押し返すように、現実の重たい空気と仲間の存在が確かにあった。
「……ありがとう。ここまで来れたの、あんたのおかげだ」
仲間は苦笑し、肩をすくめた。
「礼は外に出てからでいい。まだ道半ばだ」
赤い非常灯の下、二人はひとときの静寂に身を潜めた。
だが、その静寂の奥には、いつ破られるか知れぬ緊張が張り詰めていた。




