第百章 電源室の罠
赤い非常灯の下で、少年は頭を押さえながら深呼吸を繰り返していた。
仲間は床に座り込み、膝の上で端末を開いている。
「……高宮のログはまだ残ってる。消去はされてねえ。けど、断片的に上書きが……」
スクリーンには、膨大なデータの中に混じって、不自然に挿入されたコード列がちらついていた。
その瞬間だった。
配電盤の奥から、低い「ブゥン」という音が響いた。
蛍光灯が一斉に点滅し、壁のブレーカーが勝手に切り替わる。
「……待て、こいつは俺が触ってねえ」仲間の声が硬くなる。
電源室の空気がじわりと熱を帯びていった。
旧式のケーブルが軋むような音を立て、まるで何かが内部で流れを強制的に切り替えているかのようだった。
端末の画面には、不自然に浮かび上がった文字列が流れる。
――《記録継承シーケンス起動》
少年の視界が再びぐらついた。
頭の奥に、見覚えのある冷たい声が響く。
「……これは……高宮……?」
仲間が端末を乱暴に閉じる。
「やばい、この部屋そのものがリンクされてる! 高宮は電源系統を経由して“バックドア”を仕込んでたんだ」
次の瞬間、電源室の非常灯が赤から白に切り替わり、異様な明るさが空間を満たした。
配電盤の計器が一斉に針を振り切り、耳をつんざく警告音が鳴り響く。
少年の端末が強制的に起動し、彼の手首に組み込まれたインターフェースが勝手に反応した。
「っ……だめだ、また繋がろうとしてる!」
残滓が暴れ出し、胸の奥をかき乱す。
視界の端には、都市の記録映像の断片が再び浮かび始めていた。
仲間は叫ぶ。
「切れ! その端末を切れ!」
だが、端末は少年の意思を無視し、むしろ彼の精神を「中継器」として施設の電源網と直結させようとしていた。
電源室が、シェルターではなく――“罠”へと姿を変えていく。




