第九十五章 残された意図
端末の画面に流れ続けていたコードがようやく落ち着いた。
少年は額を押さえ、机に突っ伏したまま荒い呼吸をしていた。
「……まだ、生きてるな」
仲間は短く言い、端末をこちらへ引き寄せた。
手慣れた指さばきでデバッグモードを展開し、残っているログを遡り始める。
画面には不可解なメモリダンプが並んでいたが、その一角に明らかな“人間の言葉”が混じっていた。
≪ADAM-PROTOCOL: 不完全に終わることを前提とせよ≫
≪次世代の担い手は必ず“拒絶”を選ぶだろう≫
「……高宮、お前……」
仲間の眉が深く寄った。
さらにスクロールすると、断片的な記録が出てくる。
日付と時刻は数年前。
≪培養槽の増設は欺瞞だ。真の目的は監視網の再構築≫
≪彼らに真実を見せよ。それが最終的な抑止力となる≫
「欺瞞……?」
少年は苦しげに顔を上げた。
仲間は息を整え、淡々と読み上げた。
「高宮はアダム計画を表向き“人類再生”と喧伝していたが、実際は違う。……監視網の更新が目的だ。従来のシステムじゃ限界があった。だから“君ら”を媒介にした」
少年の表情が凍りついた。
仲間はさらにスクロールする。
≪誰かが拒絶しなければならない。計画は自壊する。だがその拒絶者は、必ず人柱になる≫
部屋の空気が冷えた。
少年の唇がかすかに震える。
「……人柱、って……」
仲間は端末を閉じ、深く吐息をついた。
「高宮は“全部計算づく”だったんだ。暴走も、拒絶も、お前の存在も。……その上で、どこかに希望を残していた」
窓の外では、遠くサイレンが鳴り続けている。
施設から逃げ延びたばかりの二人に、休息の余地はほとんどなかった。
だが、いま目の前で明らかになったのは――“高宮の真の意図”。
それは、少年自身の選択を避けては通れない道に変えてしまった。




