第八十三章 名前の断絶
〈お前の“名前”は最初から、設計の符号に過ぎなかった〉
残滓の声が、頭蓋を内側からひび割れさせるように響き渡る。
――名前が、符号?
脳裏に、何度も呼ばれてきた自分の名が浮かぶ。
友人、教師、施設の職員。
その音のひとつひとつが、自分を「自分」として確かに結んでいたはずだった。
だが、声は容赦なく切り裂く。
〈被験体シリーズの識別記号。それを“人間の名”に偽装しただけ〉
〈記号を呼ばれて喜び、悲しみ、笑ったお前は――ただの器のプログラム〉
「……やめろ……」
息が喉でつかえ、吐き出す声はかすれて震えていた。
名前を呼ばれる記憶が、音を失ってモザイクのように崩れ落ちていく。
頭の奥が灼けるように熱くなり、視界の端が白く飛ぶ。
心臓の鼓動がリズムを乱し、耳鳴りに混ざって自分の血の音が轟いた。
(俺は……存在しなかった……?)
叫び声をあげようとした瞬間、意識が一気に暗転する。
自分と世界をつなぐ“名”という鎖が断ち切られかけ、精神は奈落へと落下していった。
〈受け入れよ。お前に“個”など存在しない。計画が始まりであり、終わりだ〉
その声は甘美で、破滅的で、抗えないほど強かった。
――精神の断裂は、もはや秒読みだった。




