第八十一章 自己否定
視界が揺れ、呼吸が乱れた。
クローンの意識が消えていくと同時に、脳内に残った断片はより鮮明に形を成し始める。
――白いカプセルの中で、目を開ける少年。
その顔は、自分と同じ。
いや、同じどころか――完全な「複製」。
「……違う……違う……俺は……」
頭を抱え、床に崩れ落ちる。
心臓が胸を突き破りそうな勢いで暴れ、耳の奥で血流が轟音のように響く。
記憶が、過去が、いままでの全てが――疑わしくなる。
「俺は、俺は……高宮に拾われたんじゃなかったのか……?」
唇が勝手に震え、声にならない声が漏れる。
脳裏に再び、赤い文字が走る。
〈アダム計画――被験体 #07〉
「……七番……?」
それは、自分のことを指しているのか。
いや、否定したい。だが直感が答えていた。
――自分は「偶然に生まれた人間」ではない。
誰かの設計と、計画のために存在を許された。
その認識が、容赦なく心を削ぎ落としていく。
(俺は……俺じゃないのか……?)
自分が何者なのか分からなくなった瞬間、身体が震え、視界が白く霞んだ。
かろうじて立っていた足が崩れ、膝が床に叩きつけられる。
「……やめろ……俺は、俺だ……!」
叫んでも、響いてくるのは機械的な記録音声だけ。
どこからともなく、冷たい声が頭の奥でリフレインした。
〈存在意義:アダム計画遂行のため〉
「――ッ!」
少年は喉から悲鳴を絞り出した。
その瞬間、端末機能が制御を失い、視界の端に現実と幻覚が入り混じる。
壁の配管が血管のように脈打ち、蛍光灯の光が生物の眼球のようにこちらを凝視している錯覚に襲われる。
精神は崩壊の縁に追い詰められた。




