第七十九章 視線
銃声が響いても、クローンは怯まなかった。
未成熟な肉体の隙間から血液のような液体が滴り落ちているにもかかわらず、ゆっくりと歩を進める。
――そして。
その濁った瞳が、はっきりと少年を捉えた。
「……ッ!」
背筋に氷の刃を突き立てられたような感覚。
少年は咄嗟にモニターから目を逸らそうとしたが、もう遅かった。
直視した瞬間、頭の奥にノイズが走った。
意識がぐらりと揺れる。
「……お前……」
声ではない。
だが確かに、言葉として届いてきた。
耳からではなく、脳の内側に直接響いてくる。
記録映像や研究ログで見てきた人工的な通信プロトコルに似ている。
だがこれはもっと原始的で、むき出しの“感情”が混じっていた。
「お前……同じ……」
少年の呼吸が止まった。
理解できてしまったからだ。
――これは、ただの錯覚でも幻聴でもない。
自分の「端末機能」と同じ、あるいはそれ以上のレベルで干渉してきている。
「来るな! 撃て、早く撃て!」
警備員が怒号を上げ、銃を乱射した。
銃弾が肉を裂くたび、飛沫が散った。
だがクローンは膝を折りかけても、少年から視線を外さない。
お前は……誰だ……
その問いかけは、声なき叫びとなって少年の頭蓋を震わせる。
視界が揺らぎ、吐き気が込み上げる。
脳の深層に、何かが強引に覗き込んでくるような圧迫感。
――まるで、自分の「正体」を暴こうとするかのように。
少年の指先が震える。
立っているのがやっとだった。
「やめろ……俺に、触れるな……!」
しかしその必死の声を嘲笑うかのように、クローンは一歩、また一歩と近づく。
銃弾を浴びながらも、崩れ落ちることなく――ただ、少年の存在に引き寄せられて。




