第七十八章 破綻の瞬間
モニター越しの映像が震えた。
培養槽の中で、未成熟なクローンの身体が強く痙攣し――次の瞬間、**ガンッ!**と鈍い衝撃音が響いた。
「……破砕音?」
作業員の顔色が一気に蒼白になる。
ガンッ! ガンッ!
冷却液の内部から、拳がガラス面を叩きつけていた。
まだ骨格が未完成のはずの腕が、常識を超えた力で容器を揺らす。
「待て! 強度限界を超えてる!」
「警備班、前へ! もし割れたら――」
緊張で喉がひりつく。
少年はモニターを見つめながら、全身が粟立つのを感じていた。
――あれは「ただの未成熟体」じゃない。
隔離不完全の状態で、すでに異常な成長プロセスが始まっている。
ビシィッ!
ガラスに亀裂が走った。
冷却液がじわじわと外へ滲み出す。
警報が一斉に鳴り響き、廊下にいた人員が一斉に後退した。
「封鎖ドアを二重に閉じろ! エアロックを起動しろ!」
「間に合わない、圧力が――」
その時だった。
クローンが大きく口を開いた。
肺など完成していないはずの胸腔が、不自然に膨張する。
ガアアァァンッ!
耳を裂く轟音と共に、培養槽が内側から爆ぜた。
冷却液が滝のように溢れ出し、霧状の蒸気が床に広がる。
視界を覆う白い靄の中から、濡れた肉体が這い出してきた。
皮膚はまだ未成熟で、部分的に透明な膜が残り、血管が透けて見える。
だがその両目だけは、異様に光を宿していた。
「……出るぞ!」
銃を構えた警備員が叫び、引き金を引いた。
乾いた銃声。
しかし、銃弾は肉体を貫きながらも、その動きを止めきれなかった。
クローンは床を踏みしめ、液を滴らせながらゆっくりと立ち上がる。
少年は凍りついた。
――これは、もう「研究対象」ではない。
制御を外れた“生き物”として、この世界に現れてしまったのだ。




