第七十七章 封鎖の綻び
隔離シャッターが完全に降り、区画全体が封鎖された。
少年は作業員と警備員に腕を抑え込まれたまま、廊下に引き出される。
頭から外されたケーブルの痕がじくじくと痛み、視界の端にはまだ赤い残光がちらついていた。
「……ふぅ、これで隔離は完了だ」
防護マスクの内側で誰かが安堵の声を漏らした。
しかし、その言葉をかき消すように――
「……ピー……ピー……」
低く、耳障りなアラーム音が再び鳴り始めた。
施設のモニターに、シャッター内部の映像が映し出される。
緑色の冷却液が揺らめく培養槽。
その中央で、封じ込められたクローンの肉体が微かに痙攣していた。
「待て……あれは――」
作業員の一人が息を呑む。
クローンの皮膚が内側から膨張し、血管のようなラインが赤黒く光を帯びて浮かび上がっていく。
まるで冷却液の中で電流が走っているかのように、脈動が容器全体へ波紋を広げた。
「システム隔離不完全。内部反応を検知」
合成音声が無機質に告げる。
警備員たちは互いに視線を交わし、即座に銃を構えた。
「おい……封鎖はどうなってるんだ!? 完全じゃなかったのか!」
「内部のプロセスが……止まってない……?」
モニターの中で、クローンが目を開けた。
その視線はぼんやりと虚空を漂うが、次の瞬間、カメラに向かってぴたりと焦点を合わせた。
「……ッ!」
少年の心臓が跳ねる。
さっきまでただの“未成熟体”に過ぎなかったはずのそれが、明確な「意思」を持つ存在のように感じられた。
防護スーツの作業員が慌ててコンソールを叩く。
「冷却液を増圧しろ! 過負荷をかけて眠らせるんだ!」
「だめだ、応答が遅れてる! 信号が遮断できていない!」
赤い警告灯がさらに点滅を強め、低い警報音が廊下を震わせた。
封鎖は、完全には成功していなかった。
それどころか、隔離区画の奥では“想定外の進行”が静かに始まっていた。




