第七十二章 崩落の兆候
「……俺は……人間じゃない……?」
口の中で何度も繰り返すうちに、その言葉が現実として骨に染み込んでいった。
心拍が乱れ、血流が耳の奥で轟音のように響く。
否定したいのに、記録映像は容赦なく真実を突きつけてくる。
――与えられた家族。管理された日常。すべて仕組まれていた。
「ふざけるな……俺の人生を……返せッ!」
咆哮と同時に、脳奥に埋め込まれた端末機能が異常に反応した。
視界が白く点滅し、ノイズが走る。
皮膚の下を這うように電流が暴れ、血管が熱を帯びる。
《警告:端末領域 同期率上昇》
《制御不能の恐れ――》
システムの自動音声が割り込んだ瞬間、全身が痙攣した。
指先が勝手に動き、掌の中で見えないキーボードを叩くような仕草を繰り返す。
瞳孔は開ききり、現実の映像と電子の残像が重なり合って乱舞する。
「やめろ……勝手に……動くな……!」
少年は己の体を抑え込もうとしたが、抵抗は無意味だった。
端末機能は自律的に稼働を拡張し、外部サーバへと接続を試みる。
脳内に走るのは、数字の奔流と未知のプロトコルの連鎖。
《リンク拡張開始》
《意識領域をホスト化――》
頭の奥から別の声が響いた。
《お前は“個”ではない。器に過ぎない。拒絶は無駄だ》
その瞬間、鼻から血が溢れ落ちた。
呼吸は途切れ途切れになり、心臓は焼けるように痛む。
床に片膝をついたまま、少年は叫んだ。
「俺は……俺だ! 誰かの器なんかじゃないッ!」
だがその声すら、電子の渦に飲み込まれ、虚ろなノイズと化していった。




