第七十一章 揺らぎの深層
映像は消えず、少年の眼前に突き付けられるように漂っていた。
培養槽の中に浮かぶ幼児――その顔立ちは、鏡のように彼自身と重なっている。
「……俺……?」
喉が塞がり、呼吸が乱れた。
否定しようとする言葉が浮かんでは消え、代わりに心臓の鼓動だけが耳を打つ。
――まさか、俺は。
《観ろ。これは偽りではない》
影の声が冷酷に響く。
《お前の誕生は偶然ではなく、設計された必然だ。番号を与えられ、役割を刻まれた存在。それが“お前”だ》
少年は膝を折りそうになり、壁にもたれた。
手のひらが震え、汗で濡れる。
頭の奥で警告音が鳴り続け、視界の端が赤く滲む。
「嘘だ……俺には母がいて、育ててくれた……父だって……!」
言葉を吐きながら、映像の記録は容赦なく次々と切り替わる。
その「母」と「父」と思っていた人物が、書類にサインをし、観察者として幼児の成長を記録している姿。
彼らの顔は優しげではあったが、その眼差しの奥には科学者としての冷たい光が潜んでいた。
「やめろ……見せるな!」
叫んでも映像は止まらない。
赤子の泣き声。無表情の技術者。
数値の羅列。生命の取捨選択。
自分が「人間」ではなく「実験体」として扱われていた過去。
《お前が抱いてきた日常は“与えられた物語”にすぎない》
影が追い打ちをかける。
《選ばれたのではない。作られたのだ。お前はアダム計画の延長――次なる器として》
全身の力が抜け、床に膝をついた。
涙なのか、汗なのか分からないものが頬を伝い落ちる。
胸の奥で、自分を支えていたはずの「普通の記憶」が砂の城のように崩れていく。
「……俺は……何なんだ……」
その問いに答える者はいない。
ただ、虚空に残響だけが吸い込まれていった。




