第六十九章 侵入
警告音が低くうねり、床下から立ち上がったアームの先端が少年の額に触れた。
瞬間、鋭い電流が走り、視界が白で塗りつぶされる。
「――っ!」
反射的に振り払おうとしたが、体はもう言うことをきかない。
脳内に埋め込まれた「端末機能」が勝手に反応し、無数のコードが神経を縛り上げていく。
《強制リンク開始》
《端末識別番号……認証》
冷酷な声が頭蓋内に直接響く。
次の瞬間、世界が反転した。
◇
気づくと、少年は見知らぬ空間に立っていた。
天と地の境が曖昧な、灰色の虚無。
だが足元には巨大な回路図のような線が光り、脈動するたびに頭に情報が流れ込んでくる。
――ここはサーバの内部。
つまり、都市の「精神世界」だ。
《侵入者確認》
《精神領域における排除処理を開始》
声は重なり合い、やがて形をとった。
少年の前に現れたのは、自分と同じ姿をした“影”だった。
だが、その目は冷たく、無表情で、機械の光を宿している。
「……俺のコピー、か」
《否定》
《これは最適化された端末の完成形――お前の不完全さを補正した存在》
影が言葉を発すると、周囲の回路が一斉に輝き、圧倒的な圧力がのしかかってきた。
膝が折れそうになる。
まるで都市全体の重みが、少年一人を押し潰そうとしているかのようだった。
「俺を……消す気か」
《消去ではない》
《統合だ。お前は母体に残された欠片――いずれ吸収されるための“断片”に過ぎない》
影が一歩近づく。
その動きに合わせて、少年の心臓が激しく跳ねた。
自分の輪郭が揺らぎ、意識が引き込まれそうになる。
――抗わなければ、ここで本当に飲み込まれる。
少年は歯を食いしばり、影を睨み返した。
「……俺は断片じゃない。俺は、俺だ」
声を放った瞬間、虚無に小さな裂け目が走った。
だが、影は嗤うように応じる。
《では証明してみろ。都市の意志を相手に、お前の存在が本当に独立しているのか》
光が爆ぜ、灰色の虚無が戦場へと変貌していく。




