第六十八章 地下深層の中枢
鉄扉をこじ開けた瞬間、少年の肺を凍らせるような冷気が吹きつけた。
そこは、第九遮断層――都市の記録から消された地下空間だった。
壁一面に無数の光ファイバーが這い、青白い光を放っている。
それはまるで血管のように脈動しながら、中央に鎮座する巨大な円柱―― サーバ中枢 へと収束していた。
高さ十メートルを超えるその構造体は、透明な外殻の内側で絶え間なく光を点滅させ、心臓の鼓動のように空間全体を揺らしている。
《進行率……62%》
モニターが自動で立ち上がり、冷徹な数字を突き付けてきた。
高宮が死んでも、母体が崩壊しても――計画はまだ進んでいる。
「……ここが、本当の心臓部か」
少年は震える声でつぶやいた。
足音が、金属の床に重く響く。
わずかな振動にも、配線群が生き物のように揺れ応じた。
そのとき、耳に届いたのは合成音声だった。
《認証不能……不正端末の侵入を確認》
《アダム計画を妨害する存在――排除対象に指定》
機械的なアナウンスと同時に、床下のパネルが開き、細いアーム状の機械群がせり上がる。
鋭利な器具を備えたそれは、医療用とも拷問器具ともつかぬ形状で、ゆっくりと少年の方へ向きを変えた。
「……やっぱり、ただのサーバじゃないな」
汗で濡れた掌に、小道具の鉄片がまだ握られていた。
だが、ここで戦う相手は人間ではない。
彼が対峙しているのは、都市そのものの奥底に巣くう「意志」だった。
《進行率……64%》
数字が、無情に進む。
止められる猶予は、もうわずかしか残されていない。
少年は深く息を吸い、足を一歩踏み出した。
――ここからが本当の勝負だ。




