第六十六章 焼き切られた未来
暗闇の中で、赤いハンドルだけが異様な存在感を放っていた。
少年は震える指先でそれを握る。金属の冷たさが掌に突き刺さる。
――もう後戻りはできない。
力を込め、全身の筋肉を軋ませてレバーを下げる。
「ガンッ!」
鈍い衝撃音が室内に響いた瞬間、制御盤の奥から凄まじい火花と焦げた臭いが弾けた。
配線が次々と焼き切れ、金属の内部で爆ぜる音が重なる。
次の刹那、冷却槽を覆っていたシステムのランプが一つ、また一つと消えていった。
赤い点滅が消え、液体の循環音が途絶え、機械仕掛けの心臓が止まるように、すべてが沈黙していく。
ガラス越しに見えるアダム-01の身体が、わずかに痙攣し、静かに沈んでいった。
冷却液の表面に泡が浮かび、そして……何も動かなくなる。
「……止まった」
少年の声はかすれていた。
心臓の鼓動が耳を打ち、膝が崩れそうになる。
しかし、確かにアダム-01は沈黙した。
それは勝利であり、同時に取り返しのつかない破壊でもあった。
人類が「第二の創世」として積み上げてきた計画の核――アダム-01。
それを、少年は自らの手で完全に葬ったのだ。
だが。
焦げ臭い空気の中で、モニターの一つが微かに再起動する。
電源は死んでいるはずなのに、青白い光が揺らめき、文字列が浮かび上がった。
《アダム計画 バックアップ転送 進行率……》
《42%》
少年の瞳が見開かれる。
――焼き切ったのは「本体」だけ。
計画そのものは、まだどこかで生きている。




