第六十五章 強制断
冷却槽から響く不気味な音に、少年の喉は渇き切っていた。
氷下でわずかに動いた指、規則性を帯び始めた呼吸様の反応。
そして赤く点滅する警告ランプ。
――ここで再び止めなければ、もう終わりだ。
少年は観察窓から視線を外し、壁面のパネルへ走った。
指先で緊急遮断スイッチを叩く。
だが、反応はなかった。
「……ロックされてる?」
冷却システムは母体とリンクしている。
母体が崩壊した今、制御は自律化され、外部からの操作は拒絶されていた。
少年は周囲を見渡した。
ラックに積み上がる予備バッテリー、壁際に放置された工具、電源配線が縦横に走る配管――。
その一角に「主電源断路盤」と書かれた金属ボックスを見つける。
「ここしかない……」
パネルをこじ開けると、太いケーブルが幾重にも絡み合い、赤黒い絶縁材に覆われていた。
通常は管理者の承認コードなしに切断できない構造。
だが、ここに物理的な「力」を加えれば……。
少年は工具置き場から鉄のスパナを掴み、絶縁ゴムを巻いた手でケーブルを狙った。
呼吸を整える。
――ためらえば終わる。
その瞬間、冷却槽の奥から再び「コン」と音が響いた。
振り返ると、アダム-01の顔がわずかに観察窓の方へ傾き、閉じた瞼の下で眼球が震えているのが分かった。
「……目覚めかけてる」
少年は歯を食いしばり、スパナを振り下ろした。
バチィッ!
火花が散り、ケーブルが裂ける。
施設全体の照明が一斉に落ち、重い暗闇が降りた。
――しかし。
沈黙すると思った冷却槽から、今度は低く唸るような音が広がった。
非常電源。
システムは、想定通り自動で切り替わっていた。
「クソッ……」
少年は荒い息を吐いた。
切断は不十分。
だが同時に、断路盤の奥に「赤いハンドル」が突き出ているのを見つける。
――強制遮断レバー。
すべての回路を焼き切り、復旧不可能にする最終手段。
再び火花が散る覚悟を決め、少年はそのレバーに手を伸ばした。




