第六十三章 遮断
モニターに流れる無数の文字列。
青白い光が少年の顔を照らし出し、冷たい汗が頬を伝った。
――止めなきゃ、ここで。
転送先を追えば真実に迫れるかもしれない。
だが、それは同時に「計画を完成させるための手助け」になる可能性があった。
高宮の声が脳裏に蘇る。
《人類の進化を、止められると思うのか……?》
少年は奥歯を噛み締め、端末の操作パネルに手を伸ばした。
施設の古びたインターフェースは応答が鈍く、指先に伝わる感触は氷のように冷たい。
《警告:不正操作検知》
《副回路シーケンス進行中》
モニターの赤字が点滅する。
まるで意思を持つかのように、システムは少年の妨害を拒む。
だが彼は一瞬の逡巡も許さなかった。
――ここでやめれば、すべてが広がる。
彼は凍結レバーの隣にある、錆びた緊急遮断スイッチを見つけた。
通常は外部との通信を切断するための旧式回路。
電源を落とせば、施設そのものが沈黙する危険もあった。
「……やるしかない」
少年は震える指でカバーを叩き割り、真っ赤なスイッチを押し込んだ。
轟音が地下に響き渡る。
蛍光灯が一斉に明滅し、モニターの文字列が途切れ途切れに乱れる。
《警告……通信回路……遮断……》
《エラーコード……#FZ-001……》
最後の断末魔のように、システムの合成音声が途切れ、やがて沈黙した。
少年の鼓動だけが、闇に響いていた。
しばらくして、赤い警告灯も一つずつ消えていく。
施設は再び静けさを取り戻し、ただアダム-01の凍りついた姿だけが残された。
「……止めた、のか……?」
足が震える。
膝に力が入らず、その場に座り込んだ。
確かに転送は遮断された。
だが、その代償として、システム内部の多くが焼け落ち、復旧不可能になった可能性もある。
証拠も、情報も、すべて灰になったかもしれない。
それでも――少年の心臓はまだ鼓動を続けていた。
「アダム計画」の拡散を、少なくともここで止めたのだ。
しかし、完全な安堵は訪れなかった。
冷却槽の奥から、かすかな「音」が響いてきた。
……氷の下で、何かがまだ動いている。




