表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影を継ぐもの  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/350

第六十一章 封鎖区画



 少年は夜明け前の工業地帯に立っていた。

 K区――地図にもほとんど載らない、半ば廃墟となった港湾エリア。

 周囲は錆びついたフェンスと立入禁止の看板に囲まれ、外から見れば単なる放置施設にしか見えない。

 しかし端末データに刻まれていた座標は、確かにこの区画の奥を示していた。


 第七封鎖区画。


 そこには監視カメラの死角がいくつもあり、フェンスも部分的に切断された跡があった。

 ――誰かが、いまも出入りしている。


 少年は背筋に冷たいものを感じながら、身を低くしてフェンスをくぐり抜ける。

 錆の匂いと油の臭気が混ざり合った空気が肺に刺さった。

 足元には割れたガラス、散乱する古い器材。だが廃墟に似つかわしくない最新型のセンサーが壁に埋め込まれている。


 「……隠蔽工作か」


 内部に進むほど、ただの廃墟ではないことが明らかになった。

 地下へ降りる通路は、鉄板で補強され、電子錠で閉ざされている。

 だが、端末に残されたコードを入力すると、錠が静かに解除された。


 ――高宮は自分が死んでも、誰かがここに来ることを前提にしていた。


 薄暗い通路を進むと、奥から低いモーター音が響いてくる。

 停電しているはずの区画で、まだ何かが稼働している。


 そして、開け放たれた部屋の中央。

 巨大なガラスの培養槽の中で――アダム-01が眠っていた。


 未成熟ながらも人間そのものの形をしている。

 白い皮膚は無傷で、神経接続用のチューブが何本も体に刺さっている。

 それはただの肉体ではなく、徹底的に管理され、目的に沿って造られた「標本」だった。


 少年の胸が高鳴る。

 「……これが……」


 次の瞬間、機械音声が低く響いた。


 《警告。アダム-01、覚醒準備段階に移行》


 ガラスの内側で、ゆっくりと瞼が動いた。

 少年は一歩後ずさる。

 施設の崩壊で母体システムは死んだはずだ――だが別回線が稼働していたのか。

 アダム-01の胸が上下し、指先がわずかに動いた。


 少年は直感した。

 ――これはまだ止められる。だが、躊躇すれば完全に目覚めてしまう。


 培養槽の横には緊急停止用のパネルが設置されていた。

 赤いレバーを下げれば、薬液の供給が絶たれ、成長は凍結される。


 だが同時に、別の選択肢があった。

 ――あえて覚醒を見届け、その存在から直接「計画の真実」を引き出す。


 喉が乾く。

 背中を伝う汗が冷たい。

 現実の空気の中で、決断は一瞬の遅れも許されなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ