第六十章 核心への扉
精神の深層での対峙を乗り越えた少年は、崩壊した母体施設の暗い一角に座り込み、膝の上で端末データを解析し続けた。
脳に直接転送された情報は膨大すぎて、目で追えるものではない。
しかし、強化された意識と意志の核が、それらを整理し、意味ある形に組み替えていた。
――アダム計画。
画面に映し出されるのは、単なるクローン技術の進化系ではなかった。
それは個体の遺伝子・神経配列・社会行動の完全制御を目的とした極秘プログラムであり、母体システムはその序章に過ぎなかった。
《目的:人間の意識を操作し、集団単位で最適化された存在を作る》
《方法:胎児期からの遺伝子編集、神経回路書き換え、社会的役割のプログラム化》
《最終段階:観測者による覚醒誘導、個体の統合》
少年は息を呑む。
――これは単なる倫理を逸脱した研究ではなく、人類の構造そのものを書き換える計画だった。
さらに解析を進めると、端末内に残る高宮の音声が断片的に再生された。
《アダム-01は未完成。だが条件を満たせば、人類の次世代標本として完全に機能する。観測者次第で世界は変わる……》
少年の視線が鋭くなる。
ここまで来た以上、後戻りはできない。
高宮の死も母体の崩壊も、単なる布石に過ぎなかったのだ。
端末データには、もうひとつの座標が示されていた。
《K区第七封鎖区画。アダム-01保管・稼働率37%》
――まだ起動していない“アダム-01”。
母体を超えた、より恐るべき存在が外の世界で待っている。
少年は深く息を吸い込み、拳を握る。
「……ここで止める。誰も、この計画を完成させはしない……」
脳内に流れ込む情報は、もはや単なる解析対象ではなく、彼の決意を試す試練そのものだった。
端末の光が彼の顔を青白く照らす。
その目は、恐怖を越え、覚悟に満ちていた。
――アダム計画の核心に、少年はついに迫ったのだ。




