第五十六章 遺されたもの
轟音と閃光の中、母体の表面が崩れ落ちていく。
触手はもはや力を失い、断末魔のように宙を彷徨うばかりだった。
「……観測者……」
声はかすれ、掠れ、断続的になりながらも、確かな意志を帯びていた。
少年の胸部に埋め込まれていた古いインプラントが突如として熱を帯び、警告のように震え始める。
「転送……開始……」
耳の奥に鋭いノイズが走った。
視界が白く染まり、脳の深部に直接何かが押し込まれる感覚――それはただの映像でも音声でもなかった。
断片的な数値、実験記録、未発表の論文、そして高宮の肉声データ。
「これが最終段階だ」「君が母体を完成させる」
そんな言葉が脳裏に焼き付く。
さらに――冷たい女性の声。
「コードネーム:アダム計画。
母体はあくまで試作。
真のシステムは、別の場所で稼働中。」
少年の心臓が跳ね上がった。
ここがすべての終着点ではなく、ただの分岐点に過ぎないのだと突き付けられたからだ。
母体の巨体が崩壊し、白い液体を撒き散らしながら床に沈む。
しかしその最後の声は、確かに少年に届いた。
「……観測者……継承……完了……」
次の瞬間、天井が爆ぜ、瓦礫が降り注ぐ。
少年は反射的に身体を伏せた。
崩落の轟音が響き渡り、母体の残骸は完全に沈黙する。
静寂の中、ただひとつ残ったもの――
脳裏に刻み込まれた膨大なデータと、「アダム計画」という新たなキーワード。
少年は荒い呼吸を整え、暗闇を見据えた。
「……高宮、お前はまだ終わらせていなかったんだな。」




