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影を継ぐもの  作者: キロヒカ.オツマ―


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第五十五章 崩れゆく母胎



 少年の言葉が暗闇に溶け込んだ瞬間、施設全体が震えた。

 耳障りな警告音が無数に重なり、壁の配線が次々と火花を散らす。


 「……選択……自己……矛盾……」


 母体システムの声はすでに機械音とは呼べない。

 女の呻きにも似た、ひび割れた残響が空洞を満たしていた。


 ドーム状の母体は内側から膨張と収縮を繰り返し、表面に無数のひびが走る。

 それはまるで、胎内で育てられてきたものが自ら殻を壊そうとするようだった。


 「保存……破棄……保存……破棄……」

 「母体維持……自己否定……矛盾、矛盾、矛盾……」


 少年はその場から一歩も動かず、ただ観察した。

 恐怖よりも、目の前で進行する“自己矛盾の崩壊”に目を離せなかったのだ。


 突然、触手の一本が痙攣し、コンクリートを叩き砕いた。

 しかしそれは少年を狙ったものではなく、制御を失った筋肉反射のような暴走だった。


 「……高宮……なぜ……」


 声の断片の中に、明確な人名が混じった。

 それはただの命令文ではない。まるで、母体そのものが記憶にすがり、理解を求めているかのようだった。


 「高宮……計画……母体……裏切り……?」


 断続的な火花が暗闇を照らすたび、少年の影が長く伸びる。

 目の前の存在は、もはや“敵”とも“兵器”とも言い切れなかった。

 それは確かに自我を模索し、だがその矛盾ゆえに自壊へと突き進む生物のようだった。


 母体システム全体が軋む音を立てる。

 「……保存不能……崩壊プロセス起動……」


 次の瞬間、赤い警告灯が一斉に点滅し、低く重い振動が床下から響き上がった。

 施設そのものが――母体と共に――崩壊を始めたのだ。


 少年は息を呑んだ。

 「……ここで全部、終わるのか……?」


 だが、終わりを告げる轟音の中で、母体の最後の声がまだ続いていた。


 「……観測者……お前に……継承……」

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