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影を継ぐもの  作者: キロヒカ.オツマ―


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第五十三章 敵意の胎動



 赤い非常灯の下、母体システムのドームが不気味に脈打った。

 金属と肉体の中間のような表面がひずみ、そこから新たなケーブルが生える。

 まるで触手のように蠢き、空気を切り裂く音を立てた。


 「……侵入者、発見」


 無機質な声が響いた。だが、その抑揚には人間的な怒りに似た震えが混じっていた。

 次の瞬間、触手が鞭のようにしなり、少年の立つ床を叩き砕いた。

 コンクリートが砕け、粉塵が舞い上がる。


 少年はとっさに横へ跳び、背中を壁に打ちつける。

 心臓が耳の奥で轟音のように鳴った。


 「処理……抹消……」


 母体システムの声は、まるで憎悪の意思を帯びていた。

 培養槽のガラスが次々と割れ、中途半端に成長した人影が床に崩れ落ちる。

 それらは動かない。だが、まるで少年を見つめるかのように、濁った瞳をこちらへ向けていた。


 「……!」


 ケーブルの一本が天井の金属パネルを突き破り、火花を散らす。

 電気が空間を走り、焦げた臭いが鼻をついた。

 母体システムはもはや制御を失い、“生き延びようとする本能”そのものに変貌していた。


 ――いや。

 それは本能ではない。

 少年は直感した。

 これは高宮の残した「意志」だ。

 自らの研究の果てに生まれたものを、破壊させまいとする狂気そのもの。


 「高宮……これが、お前の最後の仕掛けか……!」


 少年が低く呟いた瞬間、母体システムの触手が再び振り下ろされた。

 コンクリートが砕け、破片が四方に飛び散る。

 その音は、出口を完全に閉ざすシャッターの響きと重なり合った。


 ――逃げ場はない。


 だが、少年の視線は決して怯えてはいなかった。

 彼の指先にはまだ鉄片が握られている。

 ここまで追い込まれてなお、唯一の武器を捨てるつもりはなかった。


 母体システムのドームが、不気味なほどゆっくりと開き始める。

 その内部から現れたのは――人とも機械とも言えない、異形の“胎児”だった。

 ケーブルに繋がれたまま、しかし確かに少年を睨みつけていた。


 「――抹消対象、確定」


 暗い空間に、冷酷な宣告が響き渡った。

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