第四十八章 異常警告
培養槽の中で、クローンの指がまた震えた。
今度は偶然ではない。少年の目の前で、確かに意志を持つように動いていた。
「……嘘だろ」
少年の掌の向こうで、細い指が必死に何かを掴もうとする。
まだ筋肉は未発達で、ぎこちなく震えるばかりだ。
それでも――その動きは、明確な「生」を主張していた。
――ピッ。
不意に、足元の床が微かに震えた。
視線を落とすと、壁面のランプが赤く点滅している。
《異常検知。対象個体の覚醒パターンを感知。》
《緊急モードへ移行します。》
無機質な女性の声が、施設全体に響き渡った。
重い鉄の扉が自動的に閉まり、警告灯が一斉に点滅する。
「……やばい」
少年は反射的に後退った。
直後、培養槽の周囲に備え付けられた金属アームが作動し、カシャリと音を立てて展開する。
まるで“中身”を暴走させまいとする檻のように、クローンの周囲を取り囲んでいく。
液体の中で、クローンの身体が痙攣した。
酸素供給のバランスが崩れたのか、泡が激しく立ちのぼる。
それでも瞳だけは、必死に少年を追い続けていた。
「俺に……何を伝えたいんだ……?」
少年の呟きに応えるように、また脳裏にざらついた感情の波が押し寄せた。
恐怖。
圧迫。
そして――「たすけて」。
次の瞬間、サイレンがさらに大音量で鳴り響いた。
《警告。実験体の自律覚醒を確認。制御手順を実行します。》
機械音声と同時に、培養槽に薬液が流し込まれていく。
鎮静化処理だ。
だが、その流れが速すぎる。
まるで「再起不能」にするかのように――。
「待て、それじゃ……!」
少年は叫んだ。
だがシステムは止まらない。
ガラス越しの瞳が、ゆっくりと閉じていこうとする。
その瞬間、少年の中で理性と本能がせめぎ合った。
――このまま見捨てるか。
――それとも助けるか。
選択の猶予は、ほとんど残されていなかった。




