第四十七章 鏡の向こうの声
液体の向こうから、じっと見つめ返されている気がした。
ガラス越しに少年は立ち尽くし、視線を逸らせなかった。
その瞳はまだ完全には開いていない。
けれど、確かにこちらを探している。
無数の管に繋がれた身体は幼さを帯びていて、完成されてはいない。
だが、その表情には――自分と酷似した輪郭が宿っていた。
「……俺……?」
思わず呟いた声は、空虚に響いた。
ガラスに手を伸ばし、掌を当てる。冷たい感触が伝わる。
その瞬間、培養槽の中で同じ仕草のように、指が僅かに動いた。
水の抵抗に揺れただけかもしれない。
だが、タイミングはあまりに一致していた。
「聞こえてるのか……?」
少年の胸は激しく鼓動していた。
答えはない。ただ、泡がひとつ上昇し、液体に消えた。
――ごぼり。
次の瞬間、頭の奥に微かな囁きのようなものが流れ込んだ。
言葉ではない。
イメージの断片、感情のかけら。
寂しさ、渇き、そして「まだだ」という切迫した響き。
少年は膝をつき、息を荒げた。
それは自分自身の心が揺さぶられているだけなのか、それとも――。
「お前……生きてるのか」
震える声に応えるように、瞳がまた痙攣した。
そして唇が、確かに動いた。
音はない。
けれど、少年には一語が浮かんだ。
――「つづく」。
その瞬間、背筋に冷たい汗が流れた。
高宮が残した「影」は死んでいなかった。
目の前の存在は、その証拠そのものだった。




